抄録
Stream/bounce(通過・反発)刺激は,運動物体を一義的な事象として維持する視覚系の機能を検討する手段の一つである。2個の物体が互いに接近した後に離れていく視覚運動を呈示すると,人は2個の物体の通過,あるいは反発のいずれかを知覚する。本研究では,左右の手を合わせた観察者の両手が通過・反発刺激の交差点を遮蔽する時に,当該の事象知覚に及ぼす影響を検討した。その結果,観察者の両手が刺激の交差点真下の条件は,両手を膝上に置いた(手なし)条件に比べて反発知覚が促進され,齋藤・行場(2014)の結果を再現した。両手が刺激交差点を遮蔽した条件は,そうでない条件に比べて有意に反発知覚回答率が低く,また手なし条件との間に有意差が認められなかった。以上の結果から,身体による遮蔽下で非感覚的に生成される運動物体表象が,手の自己受容感覚情報による反発知覚を減衰させ,通過知覚の促進に機能することを示唆する。