抄録
深海などの高気圧環境では物体の心的操作が困難になることが報告されている.一方,常圧環境では抽象的な図形であっても,人間の身体像に変換することによって心的回転課題成績は向上することが報告されている.本研究では,この変換効果に着目し,高気圧曝露が心的回転に及ぼす影響について,2種類の図形(Shepard-Metzler図形・人型図形)による心的回転課題によって検討した.本実験では,心的回転課題を21気圧深海潜水訓練中に5回(訓練前:1気圧・16気圧加圧・21気圧保圧・16気圧減圧・訓練後:1気圧)実施し,正反応時間と誤反応率によって結果を評価した.本実験において,正反応時間が訓練前で最も遅く,人型図形はShepard-Metzler図形に比べて常に速かった.一方,誤反応率は図形や環境圧による違いはなかった.以上から,人型図形の心的回転に高気圧曝露は影響しないことが示された.