抄録
抑うつ者は気分が落ち込むと抑うつ処理が活性化され,ネガティブな記憶を想起しやすくなる。一方で気分と反対の感情価の認知が促進されることを気分不一致効果という(Forgas & Ciarrochi,2002)。気分不一致効果の生起要因として自身の気分を向上しようとする気分緩和動機があるが,気分緩和動機だけでは気分不一致効果を予測できないことが報告されている。そこで本研究は他要因として,心理的な距離を保ちつつ思考や感情を体験することである脱中心化(Teasdale, Moore, Hayhurst, Pope, Williams, & Segal,2002)を検討し,気分不一致効果の生起メカニズムを明らかにすることが目的であった。結果として,脱中心化は気分不一致効果の要因として確認できなかった。ここから,脱中心化は想起した自伝的記憶の性質ではなく,記憶に対する認知に作用することが予想される。