抄録
私たちは目に映った物体群の特徴をごく短い時間で正確に知覚できる。これはアンサンブル知覚と呼ばれ、単純な幾何学図形のみならず表情のような複雑な刺激においても可能であることが示されている。表情に対するアンサンブル知覚では、どの程度の精度の情報が取得されているのだろうか。実験では、真顔もしくは笑顔か怒り顔の表情を表出した12人の顔写真を500ms間呈示し、観察者に真顔と表情顔のどちらが多かったかを判断させた。表情の平均が正しく計算できれば高い正答率になると考えられたが、実験の結果、正答率は全体の中の表情顔の割合と同じくらいであり、正確にアンサンブルが知覚されていたとは言えなかった。単純な幾何学図形を用いた場合や少数の表情刺激の場合にはアンサンブルを知覚するのに十分な呈示時間であったことから、表情のアンサンブル知覚は単純な幾何学図形の場合とは異なるメカニズムで計算されている可能性が示唆される。