本研究は,学習時とは異なる視点から見た顔を事前に想像することによって,その視点から見た顔の再認成績が向上するかどうかを検証した。実験では,学習刺激(正面顔;0度)を4秒間提示した後でテスト刺激(0度・30度・60度のいずれか)を提示し,2つの刺激の異同判断を求めた。学習刺激の提示中もしくはテスト刺激の提示と同時に,テスト刺激の視点を示す手掛かり画像が提示された。実験の結果,同じ顔の判断時には手掛かりの事前提示によって0度条件と30度条件の再認成績が向上したが,60度条件の再認成績はむしろ低下した。一方,異なる顔の判断時には手掛かりの影響は見られなかった。これらの結果から,学習時の視点に近い顔を想像することは比較的容易であるが,視点が遠ざかると想像が困難になり,かえって再認を妨害することが示された。これは顔以外の物体の心的回転では見られない現象であり,顔に特有な処理の関与を示唆している。