抄録
他者との競争により記憶は促進される.しかし,他者に勝利することへの期待が競争による記憶促進効果に与える影響や,その影響と他者に勝利することの達成動機(競争的達成動機)との関係は明らかではない.本研究では,記憶課題において他者へ勝利する期待の高さを操作し,競争的達成動機が高い参加者と低い参加者を比較することで,これらを検証した.参加者は,勝利の期待が高い条件(高期待条件)と低い条件(低期待条件)で他者と競争する条件としない条件で単語を記銘し,その後に単語の再認と主観的な達成動機の評価を行った.その結果,高期待条件においてのみ競争による記憶の促進効果が有意に認められた.また,この記憶促進効果は,競争的達成動機が高い参加者群においてのみ有意であった.これらの結果は,他者に勝利することへの期待が高い場合に競争によって記憶は促進され,その効果は競争的達成動機の個人差によって異なることを示唆している.