抄録
本研究では,事件を目撃した人の記憶に基づくはずの目撃証言の信頼性が,なぜ低くなってしまうのかに着目した。これには,事件・事故の目撃による情動の喚起が,記憶を抑制することが関連している。多くの実験研究では,情動喚起刺激を全実験参加者が容易に知覚できる状態で提示することで,その情動喚起が記憶に与える影響を検討してきた。しかし現実場面では,目撃者は多くの刺激が存在する場面において,情動喚起刺激に選択的に注意を向けるのである。そこで本研究では全実験参加者に同じ映像を呈示し,その映像内に呈示された情動喚起刺激に気付いたかどうかで群わけを行い,その映像の全ての内容についての記憶テストを行った。その結果,情動喚起刺激を目撃した群のほうが目撃していない群よりも記憶が抑制されていた。この結果は,現実の目撃場面においても実験場面と同様の情動による記憶抑制が生じることを示唆している。