抄録
自己評定に基づく方向感覚は、これまで多くの研究が用いてきた指標であり、また実際の探索成績や訓練効率の予測にも成功してきた。しかし自己評定は、必ずしも実際の能力を正確に反映しているわけではなく、評定者の能力が低い場合には能力の過大評価が起こるという問題が知られている。そこで本研究では、方向感覚の自己評価と実際の能力の乖離に注目し、空間認知におけるメタ認知の影響を明らかにした。1000名の参加者を対象に、方向感覚の自己評定、経路記述のわかりやすさ評定、経路探索成績の3つの指標を測定し、これらの関連性を検討した。クラスター分析の結果、これまでの研究が想定してきた「方向音痴」と「方向感覚に優れた人」の2つに加え、方向感覚の自己評定は高いが実際の成績は低い「自信満々な方向音痴」の存在を明らかにした。このことは、一部の人の方向感覚のメタ認知と実際の能力に、乖離があることを示している。