抄録
デザイナーが意図的に制作した手書き文字は,言語的・絵画的特徴を有するため,観察者は言語的理解がなくても絵画的特徴を参照し,何を表現しようとしているか知覚できる。先行研究では手書き文字のパワースペクトルを示したが,文字の絵画的特徴の知覚に必要な空間周波数の詳細については明らかでない。そこで本研究では,手書き文字の筆跡または書体の種類を弁別できるかどうかを絵画的特徴の知覚の指標とし,知覚可能な空間周波数帯域の幅を調べた。実験では,3人の書道家による3書体の文字9種について,低周波または高周波成分のいずれかを抽出した画像を呈示し,極限法によって弁別閾を測定した。閾値に基づき知覚に必要な空間周波数帯域を求めた結果,筆跡は書体よりも幅広い空間周波数帯域で表現されることが示唆された。手書き文字の筆跡が有する非言語的な特徴を用いると,書体を変えて表現するよりも豊かな表現が可能になるといえる。