抄録
私たちの先行研究では、ネガティブではなくポジティブ感情のみが俳句の美的評価を説明したり(Hitsuwari & Nomura, 2021)、認知的曖昧性が俳句の美的評価を下げたりする (Hitsuwari & Nomura, in revision) 等の新知見を見い出した。同時に、芸術におけるネガティブ感情 (Mennighaus et al., 2017) や認知的曖昧性 (Muth et al., 2015) の重要性を考慮するならば、次の研究ステップとして俳句の鑑賞中に起こる感情・認知の変化プロセスと美的評価との関係をより丁寧に検討する必要がある。そこで本研究は、俳句の各パート (上五・中七・下五) を段階的に評価し、かつジョイスティックによる連続的な感情指標を追跡することにより、感情と認知の変化が俳句の美的評価に与える経時的影響を検討した。113名の京都大学生を対象とした実験室実験の結果、ポジティブ感情の増加や感情的・認知的曖昧性の解消が「俳句の美」を説明することを見出し、俳句の鑑賞においても感情や認知の変化過程に注目する重要性を新たに示しえた。