抄録
時間の流れには向きがある。しかし、自然動画で再生方向の弁別実験を行ったところ、簡単に弁別できる動画(動物の前進や、物体の落下など)から弁別困難な動画(会話、演奏など)まで、時間の向き情報量には幅があることを見出した。時間の向きの情報は、刺激の運動エネルギーのように時間長知覚に影響を与えるだろうか。時間の向きの情報の大小で2群に分けた3秒動画刺激を順または逆方向に再生して、再生時間が3秒より長いか短いかを強制2択する課題を行った。その結果、再生方向は影響を与えない一方、大情報群は小情報群よりも有意に長いと知覚されること (p=0.00023)、さらに小情報群だけで運動エネルギーと有意な相関が生じること、が明らかになった。動画刺激が持つ時間の向きの情報は、刺激の運動エネルギーの大小にかかわらず、主観的な時間の流れを遅らせる。