抄録
ダブルタッチ錯覚は,被験者が閉眼のまま自身の片手の指とその近傍の他者の指をそれぞれ自身のもう片手の人さし指と中指で同時にタップすると,他者の指を自身の指のように感じられ,タップされた自身の指が伸びたように感じられるセルフタッチ錯覚の一種である。本実験の目的はダブルタッチ錯覚が手指の解剖学的な制約を受けるかを調べることであった。被験者は自身の左手人さし指とその延長線上に置かれた他者の指のそれぞれ爪あるいは爪のつけ根の皮膚部分のどちらかをタップした後,その感覚に関わる質問項目に回答した。実験の結果,指の所有感と伸長感の評定値はどちらも自身の指の爪と他者の指の皮膚部分をタップする条件よりも解剖学的にもっともらしい形態である自身の指の皮膚部分と他者の指の爪をタップする条件で有意に高かった。本実験の結果は,指の所有感および伸長感が感覚の入力と身体の内部モデルに依存しながら柔軟に形成されることを示す。