抄録
身体が自分のものであるという感覚 (身体所有感) は,アバターのような自己身体以外にも付与できることが知られており,その現象はフルボディ錯覚 (FBI) と呼ばれている。FBIは身体所有感を付与させる対象物が自己身体との類似度が低いと生起しづらいことが知られており,それは自己身体の空間的なイメージを対象物へ対応 (マッピング) させにくいためであると考えられている。ではマッピングを意識的に行えば,身体との類似度の低い箱にも身体所有感を付与することができるのであろうか。本研究では箱に対して意識的にマッピングをさせる条件とマッピングをさせない条件を設け,FBIの生起量を比較した。その結果,参加者にマッピングをさせる条件ではむしろ錯覚の生起量が低下した。この結果は,マッピング条件において,身体との類似度の低い箱に自己身体をマッピングしようとしたことにより葛藤が生起し,FBIの生起が阻害されたことを反映していると考えられる。