抄録
文字が綺麗な人とそうではない人では,文字の微細な造形に対する敏感さに違いがあるかどうかということを調べた.文字の綺麗さによって2群に分けた実験参加者に,オリジナルの文字と,オリジナルの文字から右側下部の縦画をそれぞれ80%と90%に短縮させた文字を連続で提示し,文字の異同を判断させた.その結果,いずれの変形率の場合でも,美文字群の方が非美文字群よりも正答数が多く,美文字群は非美文字群よりも微細な造形の変化に敏感であることが分かった.この結果は,美文字群と非美文字群とでは,文字を認知する際の処理に違いがある可能性を示している.こうした可能性は,美文字の書き手は,文字の造形の美しさという要素を,言葉の記録や伝達という文字本来の機能と同等に重視していることの現れと言えるかもしれない.