抄録
甘さは,味覚だけでなく人の魅力や優しさを表現する比喩としても用いられる。先行研究では,身体感覚や身体運動が対人認知に影響を与えることが明らかになっており(身体化認知,Williams & Bargh, 2008),甘味を感じると対人相手に対する魅力評価が高まることが示されている。しかし,甘味と対人印象の関連を調べた研究では,日本語で甘さが大雑把さなどのネガティブな比喩として用いられることは考慮されておらず,甘味が表情知覚に与える影響も検討されていない。そこで,日本人52名を対象に,甘味が印象と表情の知覚に与える影響を検討した。実験では,参加者は甘い(甘味群)または苦い(苦味群)チョコレートを食べた後,無表情の顔画像の人物に対する印象評定と表情評定を行った。結果,甘味群は苦味群よりも人物の魅力を高く評価したが,大雑把さや思慮の浅さの印象評価に違いはみられなかった。また,甘味群は苦味群よりも恐怖表情を低く評価する傾向があった。これらの結果は,身体化認知や言語的メタファーの観点から考察される。