抄録
我々は人に類似した対象に強い不気味さを覚える(不気味の谷)。先行研究はそのメカニズムについて嫌悪感情などに基づく仮説(e.g., 死への恐怖の回避)や認知処理に基づく仮説(カテゴリー化困難仮説)で説明してきた。認知処理に基づく仮説はアニマシーに依らずとも説明が可能であるが,先行研究では顔などアニマシーと切り離せない実験刺激が用いられている。したがって不気味の谷の生起にアニマシーが必要かどうかは明確ではない。そこで本研究ではアニマシーを伴わない幾何学図形でモーフィング図形を作成し,その分類に要する時間と好ましさの評価を調べた(実験1)。その結果,分類の容易な図形は分類の難しい図形よりも好ましく評価された。さらに分類に伴う処理流暢性の低下が分類の難しい図形の好ましさ評価を下げていると仮定し,知覚(実験2)および認知(実験3)的処理流暢性の影響を検討した。本研究の結果はアニマシーが不気味の谷の生起に必ずしも必要ではないことを示唆し,認知処理に基づく仮説を支持した。