抄録
会話は他者と関係性を築くための重要なツールである。発話速度が自分と同じ者に対する印象は好意的になりやすく,また違う発話速度の者に対しては自身の発話速度を同調させる傾向が知られている。一方で自閉スペクトラム症(ASD)者はそのような同調が生じにくいと報告されている。本研究では,ASD者における同調の生じにくさが,他者の発話速度の違いに気がつきにくく,印象が変化しにくいことから生じると仮説を立て,検証を行った。成人のASD者と定型発達者を対象に,様々な速度の音声刺激と疑似的な会話を行ってもらった。その結果,違う速度の刺激に対する同調の生じやすさ・発話速度の違いへの気がつきやすさ・発話速度の違いに伴う印象の変化に群差は見られなかった。一方で,ASD者は発話速度がより遅く,また遅い発話速度と社会的場面での適応的な振る舞いに関する難しさと関連した。これらのことから,発話の速度の違いが他者との関わりに重要な役割を持つことが示唆された。