従来脳機能を理解するための実験環境では,社会環境や他者との相互作用などの制御もしくは予測困難な要素は極力排除されてきた。一方,脳が人工システムと異なるユニークな機能は,予測不可能な環境の中で,いかに効率よく目的を達成するかという適応能力にある。しかし,その適応機能を理解しようとしても,適応機能が発現するための予測不可能性は,これまでの脳科学の実験環境では排除されており,その脳の最もユニークな性質を研究対象にできなかった。そこで我々は,サルの社会的上下関係にもとづく社会的行動選択を対象とし,その中での適応的行動選択の神経メカニズムを,新しく開発した多次元生体情報記録手法を用いて明らかにした。その手法は,新しい脳科学を切り開く可能性を示したが,さらなる適応機能の理解には,ブレインマシンインターフェイス技術を用いた,脳と実験者の双方向コミュニケーション技術を応用することが必要であろう。