認知リハビリテーション
Online ISSN : 2436-4223
14 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特別寄稿
  • 藤井 直敬
    2009 年 14 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    従来脳機能を理解するための実験環境では,社会環境や他者との相互作用などの制御もしくは予測困難な要素は極力排除されてきた。一方,脳が人工システムと異なるユニークな機能は,予測不可能な環境の中で,いかに効率よく目的を達成するかという適応能力にある。しかし,その適応機能を理解しようとしても,適応機能が発現するための予測不可能性は,これまでの脳科学の実験環境では排除されており,その脳の最もユニークな性質を研究対象にできなかった。そこで我々は,サルの社会的上下関係にもとづく社会的行動選択を対象とし,その中での適応的行動選択の神経メカニズムを,新しく開発した多次元生体情報記録手法を用いて明らかにした。その手法は,新しい脳科学を切り開く可能性を示したが,さらなる適応機能の理解には,ブレインマシンインターフェイス技術を用いた,脳と実験者の双方向コミュニケーション技術を応用することが必要であろう。

原著
  • 松岡 恵子, 小谷 泉, 山里 道彦
    2009 年 14 巻 1 号 p. 8-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,高次脳機能障害者(以下,当事者)が携帯電話やインターネットをどのように用いているかを調査した。対象は,高次脳機能障害専門機関で募集した当事者39名(以下,障害群)および年齢,性別,教育歴でマッチさせた健常者25名(以下,健常群)である。対象者に対し,携帯電話およびインターネットをどのように用いているか,どのようなメリット・デメリットを感じているかについて調査した。その結果,障害群における携帯電話やインターネットの利用は健常群ほど活発でなかった。障害群では,家族にいつでも連絡が取れる安心感を携帯電話の主要なメリットと考える割合が高かった。また,障害群ではインターネットのメリットもデメリットも特にないと答えた割合が高かった。携帯電話やインターネットをリハビリテーションに用いる際には,このような特性を考慮に入れる必要があると考えられた。

  • 小林 希代江, 山田 真希子, 大東 祥孝
    2009 年 14 巻 1 号 p. 21-32
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    Psychotic Disorder Following Traumatic Brain Injury(PDFTBI)は,頭部外傷後平均4,5年を経て出現しうる被害的幻覚妄想状態を主とする精神病状態である(Sachdev et al, 2001, Fujii et al, 2001)。PDFTBIの多くに側頭極病変が認められる。側頭極は,視覚や聴覚が収斂する部位であって,同時に扁桃体や前頭葉眼窩面との強い連絡があり,社会的・情動的機能と深く関わっていることが知られている。このことから,PDFTBIでみられる精神病状態の発現に,社会的・情動機能の変容が関与している可能性が推定される。本研究では,PDFTBI患者3名,対照群22名に対して,情動強度評定課題を試行した。両者の情動認知特性を比較検討した結果,PDFTBI患者では,個人差があるものの,表情に対し不快情動を過度に見積もる認知特性が認められた。このことから,他者認知に負のバイアスがかかることが推測され,他者の表情・感情の理解に混乱が生じる可能性が想定される。これらの混乱の持続が妄想知覚へと発展するのかもしれない。以上の結果をふまえて,PDFTBI,側頭極損 傷,妄想知覚の発現要因について考察した。

  • 松本 かおり, 春原 則子
    2009 年 14 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    頭部外傷により高次脳機能障害を呈し,自己認識に大きな問題があると考えられた症例に対して,自己認識力改善に向けて訓練を行い,一定の効果をあげたので報告する。訓練は,問題点を直接的に指摘する方法と,自身の言動をビデオで確認させて,間接的ではあるが自主的に気付かせる方法など複数の異なるアプローチを用いた。訓練中最も明確な変化が示されたのは,問題点の書き取りや音読をした後であった。意識と言語は関連の深いことが知られている。本例も書く,読む,という能動的な言語活動,つまりより高次の認識行為を要求される作業が自己認識の改善に有効であったと思われた。

    また,自己認識と日常活動の改善が時期的に一致していたことから,自己認識力の改善は,日常場面で自身の問題行動に気付き,対応できるようにすることを促進させた可能性が示唆された。

  • ― 脳血管障害後の適応障害が改善した1例―
    穴水 幸子, 吉岡 文, 三村 將, 船山 道隆, 高畑 圭輔, 鶴田 薫, 山田 裕子, 加藤 元一郎
    2009 年 14 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    ワープロ入力が困難である左被殻~放線冠の脳梗塞後の軽度流暢性失語症例を経験した。本症例の特徴は,拗音をふくむ単語のローマ字入力ができないことであり,この症状は認知リハビリテーション後も残存した。清音・濁音と拗音のローマ字入力成績を,聴覚呈示条件と仮名文字視覚呈示条件において統計的に検討した結果,聴覚呈示条件では拗音の成績に有意な低下を認めた。清音・濁音に比し,拗音入力は操作段階が多いことがその一因と考えた。仮名文字視覚呈示条件では成績に差がなく,仮名文字がローマ字想起を促進する機構が推察され,脳内における<ローマ字⇔仮名文字>表象の補完性や,両文字の言語音韻システム基盤上での近似性を示唆する知見の一つと考えた。本症例は,復職をひかえ,とくにワープロ入力に強い不安を感じ,適応障害を示したが,ワープロ入力訓練を実施することにより不安感は軽減し,社会生活能力を向上させた。個別性の高い適切な認知リハビリテーションを行うことで精神症状が緩和し,より積極的な社会生活が行える可能性があると考えた。

  • ― 認知リハビリテーション的アプローチの試み―
    宮崎 晶子, 森 俊樹, 加藤 元一郎
    2009 年 14 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2009年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    脳梗塞後に脳梁損傷および左前頭葉内側面損傷により左手の拮抗失行と右手の間欠性運動開始困難を呈した1例について,認知リハビリテーション的アプローチを試みたので報告する。右手は無意識な動作場面では両手の協調動作が可能であっても,意図的な動作場面では動作の開始困難と停滞が認められた。同じ動作を繰り返すことによって運動開始困難が軽減するという仮説をもとに,左手の固定などにより右手の使用をうながし,特定の動作パターンを繰り返すという方法で訓練を実施した。その結果,同じ課題(すなわち特定の刺激)に対してautomatic な反応に近い状況になるまで繰り返し動作学習を行うことによって右手の運動開始困難は軽減したが,訓練を行った課題以外の動作には般化されなかった。訓練の効果について随意運動時の主体の注意と,運動の活性化・抑制との関連から考察を行った。

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