Psychotic Disorder Following Traumatic Brain Injury(PDFTBI)は,頭部外傷後平均4,5年を経て出現しうる被害的幻覚妄想状態を主とする精神病状態である(Sachdev et al, 2001, Fujii et al, 2001)。PDFTBIの多くに側頭極病変が認められる。側頭極は,視覚や聴覚が収斂する部位であって,同時に扁桃体や前頭葉眼窩面との強い連絡があり,社会的・情動的機能と深く関わっていることが知られている。このことから,PDFTBIでみられる精神病状態の発現に,社会的・情動機能の変容が関与している可能性が推定される。本研究では,PDFTBI患者3名,対照群22名に対して,情動強度評定課題を試行した。両者の情動認知特性を比較検討した結果,PDFTBI患者では,個人差があるものの,表情に対し不快情動を過度に見積もる認知特性が認められた。このことから,他者認知に負のバイアスがかかることが推測され,他者の表情・感情の理解に混乱が生じる可能性が想定される。これらの混乱の持続が妄想知覚へと発展するのかもしれない。以上の結果をふまえて,PDFTBI,側頭極損
傷,妄想知覚の発現要因について考察した。
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