抄録
本稿は大学院留学生1 名が描く留学に対する期待と実際の留学経験を明らかにすることを通し、大学における留学生受入れの現状と課題について、特に日本語教育に関わる者の立場から再検討するための視座を提示することを目的とする。この背景には、大学における日本語教育の存在意義が問われる中で、果たしてその役割は言語習得の機会の提供だけなのかという問題意識がある。ただ、日本の大学で学ぶ大学院留学生の「声」を聞くことを通して、かれらに対する理解を深めるような調査・研究は十分に行われていないことから、半構造化インタビューを用い、大学院留学生の経験や情意的目標を探った。データ分析に基づき、1)日本語学習に関する期待と現実の把握、2)情意的目標を考慮した日本語指導・支援の必要性、3)情意的目標をめぐる交渉と働きかけの3 点を中心に、日本語教育に携わる者の立場から、大学院留学生の描く「想像の共同体」を留学生支援においてどのように考慮する必要があるのか指摘する。