温度1 K 以下の低温分子の高分解能な分光法として,摂動が小さく等方的な4He の極低温環境に分子を捕捉する,超流動ヘリウムナノ液滴を用いる手法がある.内包された中性分子は液滴温度0.37 K に冷却され,孤立気相分子に近い振る舞いをし,He の電子衝撃イオン化と電荷移行反応によって効率的にイオン化される.近年,液滴温度に冷却された分子イオンの質量選択的な赤外振動分光が可能になり,気相では観測できなかった水二量体イオンの準安定状態の分光観測に成功した.本稿ではヘリウム液滴による低温分子イオン分光の詳細と,液滴の内包分子を急冷する特徴によって得られた分子イオンの準安定状態の観測について解説する.