2025 年 22 巻 1 号 p. R001-
100 ピコ秒のパルス幅を持つ放射光を用いた時間分解軟X線吸収分光法 (TR-SXAS) は,溶液中の金属錯体や有機分子におけるスピン状態の転移や電荷移動,エネルギー移動などのピコ秒からマイクロ秒の時間スケールで起きる光反応の有効な分析手法である.TR-SXASでは,軽元素 (C, N, O) のK吸収端や3d遷移金属 (Fe, Co, Niなど) のL吸収端の吸収スペクトルの時間変化から光反応中の電子状態の変化を詳細に観測できる.我々は,簡便かつ広範囲な溶液試料を対象とした測定が可能なTR-SXASの実現を目指し,厚さ可変の軟X線吸収分光用セルにレーザーによる試料励起の仕組みを取り入れたシステムを開発した.本稿では開発したシステムの特徴や鉄フェナントロリン錯体溶液の光励起後の緩和過程を観測した実証実験の結果について解説する.