多くの液相の飽和脂肪酸は,対流圏の太陽光の波長領域(295 nmより長波長)に弱い吸収帯をもつと報告されており,飽和脂肪酸の光反応は大気化学の分野で注目されている.しかし本研究では,既報の液相ノナン酸(CH3(CH2)7COOH)の250 nmより長波長の光吸収は,試薬に含まれる微量不純物(0.1%以下)に由来することを明らかにした.得た液相ノナン酸の吸収断面積から,対流圏における光分解速度の上限値を導出し,その大気化学的意義について考察した.本研究成果は,液相の脂肪酸をはじめとする有機分子の光反応について実験を行う際に,試薬内の不純物の影響を適切に評価する必要があることを示す.