コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
最新号
コモンズ 第5号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
巻頭言
査読論文
  • ある元日本チャンピオンによるオートエスノグラフィ
    渡辺 暁
    2026 年2026 巻5 号 p. 4-27
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/11
    ジャーナル オープンアクセス
    チェスというゲームを高いレベルでプレイするためには、様々な技術が必要であるが、そのような能力のうち、どのような部分が特に衰え、どのような部分は比較的保たれるのであろうか。本稿はかつてチェスの日本チャンピオンであった筆者が、10 年ぶりに引退を撤回して競技に復帰した過程を分析するオートエスノグラフィである。競技チェスからの長いブランクと加齢により、筆者のチェスの実力は大幅に低下し、多くの自分よりも順位(レーティングという点数で表される)の低いプレイヤーに敗北を喫した。その一方で筆者は、一部の能力についてはそこまで衰えていないと感じた。具体的には、計算能力が極端に衰える一方で、ポジショナルなスキル(局面を評価したり駒の配置をデザインしたりといった、局面の正確を判断する能力)は、比較的保たれており、それがなんとか実力低下に歯止めをかけたと考えられる。
  • 「個性」「無名性」という観点から
    佐々 風太
    2026 年2026 巻5 号 p. 28-42
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/11
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、民藝運動の陶芸家・島岡達三の文様、「縄文象嵌」について整理・考察する。この整理・考察を通して、これまで研究の蓄積が手薄であった、縄文象嵌の特色を明らかにする。また、縄文象嵌と密接に関わる、島岡の作陶における「個性」と「無名性」の問題について、明らかにする。  まず、縄文象嵌の成立過程について、島岡の回想や、当時の濱田の評価などを手がかりとしながら確認する。これにより、縄文象嵌の成立に、「個性」と「無名性」の止揚という島岡の問題意識が深く関わっていたことが明らかになる。 続いて、縄文象嵌と、そこに追加される釉薬流し掛けなどの関係(すなわち島岡作品における「地」と「図」の関係)を確認する。これにより、島岡が縄文象嵌という独自の文様をある種の背景(「地」)として位置付けていたことが明らかとなる。そして、「個性」を「無名」にすることで深い「個性」を生もうとする島岡の問題意識と、縄文象嵌を「地」とすることで控えめながら独自の作風へ至ろうとする島岡の志向の、構造の共通性が明らかになる。 さらに、こうした島岡の態度は、縄文象嵌の着想の源となった縄文土器と島岡の関係性にも関わっていた。本稿ではこの点についても一考し、島岡が「個性」と「無名性」を止揚できる文様として縄文象嵌を生み出す過程は、縄文から「図」としての側面を捨象し、「地」としての縄文を展開していく過程でもあったことが分かる。また、島岡が自作や蒐集において実は無文の造形を好んでいたことにも触れ、この志向と「地」としての縄文象嵌の関連性について考察する。 以上のように、島岡の縄文象嵌には、「無名性」と「個性」という二つの命題の往還の問題が、一貫して深く関わっている。この問題は、縄文象嵌の創出、縄文象嵌作品の作風の広がり(釉薬流し掛けなど)、島岡の古作への向き合い方など、島岡の活動をめぐる各所に特徴的なものであった。
  • Jin Wen
    2026 年2026 巻5 号 p. 43-60
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/11
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、日本の都道府県におけるソーシャルメディアポリシーの策定実態とその内容を実証的に分析したものである。分析の結果、地方自治体の多くは、ソーシャルメディアを運用する際、情報セキュリティの確保や組織的リスク回避といった規制的枠組みを優先する傾向にあることが明らかとなった。すなわち、ソーシャルメディアが本来的に持つコミュニケーション特性、とりわけ双方向性が制度的に抑制される構造が浮き彫りとなった。 具体的に、46 都道府県のソーシャルメディアポリシー文書を対象に、「運用目的」「利用者との応答方針」「法的・倫理的配慮」の3 つの主要要素に着目した比較分析を行った。その結果、情報発信という手段が目的化されていること、「原則として返信しない」とする一方向的な運用方針の一般化、そして法的・倫理的配慮における記述内容にばらつ きがあることなどが確認できた。そのなかでも特に、知的財産や個人情報の取り扱いに関する対応の記述に都道府県間で顕著な差異が見られた。こうしたポリシーの記述上の特徴は、ソーシャルメディアの運用をめぐって、組織内部に根付いたリスク回避や規制の志向性といった行政上の価値観や制度の特徴、ならびにその程度の差の反映として理 解できるというのが本稿の主張である。 急速な技術革新が進む現代社会において、技術革新に対する規制、政策の遅れが倫理的、規制的課題への対応を困難にすることが知られているが、地方自治体においても、それらの課題に適切に対応するためのソーシャルメディアポリシーの体系的構築が喫緊の課題であることが明らかになった。
  • Cowboy Masculinity in Cormac McCarthy’s All the Pretty Horses
    Qin Rong
    2026 年2026 巻5 号 p. 61-73
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/11
    ジャーナル オープンアクセス
    This paper argues that All the Pretty Horses (1992) rearticulates the cowboy myth as a form of strategic masculinity in response to late twentieth-century anxieties surrounding male identity. Rather than dismantling hegemonic gender norms, Cormac McCarthy reconfigures them through the figure of John Grady Cole, who embodies both traditional cowboy virtues and emotional vulnerability. Drawing on theory of masculinity by Hamilton Carroll, the paper examines how the novel reframes masculine authority through affective suffering and ethical introspection. Grady’s marginal status, romantic failure, and moral struggle do not undermine his masculinity, instead, they enable its cultural reinvestment. This softened heroic model preserves the ideological function of the cowboy while adapting it to contemporary narratives of male crisis and resilience. Ultimately, the novel functions as a cultural mechanism through which masculinity survives not by rupture, but through affective reinvention.
  • 潜在的実在に着目した地域実践記述試論
    村上 竜雄
    2026 年2026 巻5 号 p. 74-91
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/11
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、内発的発展論の中核的概念である「キー・パースン」の創造性をいかに記述しうるかという理論的課題に取り組み、創造性を制度的評価や個人の資質ではなく、関係のなかで生成される出来事として捉え直す「生成論的転回」を提起する試論である。 キー・パースン概念は、哲学者の市井三郎が「歴史的必然性」に抗して意志をもって参与しようとする例外的諸個人として構想したものであり、鶴見和子はこれを地域の名もなき実践者の創造性を照射する枠組みとして継承した。 地域社会実践の事例研究において、重要な役割を果たしてきた同概念であるが、その一方で、語りや制度的評価の過程において特定個人が英雄化され、創造性が顕在的成果やリーダーシップへと還元される傾向をはらんできたことは否定できない。 こうした構造的問題を批判的に検討しつつ、本稿は創造性を環境・歴史・他者との交錯のなかで立ち現れる出来事的実在として再定位し、その生成的過程を捉えるための記述方法論を提示する。理論的基盤として、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの有機体の哲学、および、イザベル・ステンゲルスの応答的世界観を参照し、記述行為を出来事 の網の目に参与しつつ意味を共に生成する倫理的実践として再定位する。さらに、批判的実在論の視座を導入し、創造性を直接観察可能な現象の背後で作用する潜在的実在として捉え、アブダクションとリトロダクションによる推論過程を方法論的基盤として位置づける。 事例分析では、著者が参与する人材育成事業を事例に、構造的記述の意義と限界を明らかにしたうえで、記述者の参与を通じた応答的記述の可能性を検討する。その結果、実践者に内在する感受の契機に着目することで、創造性が倫理的応答として立ち上がり、関係的発火を媒介として共に生成される創造性の動的過程が明らかとなった。
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