コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
査読論文
歴史資料の保存から考える「利他」
フランシス・ベーコンの「苗」のアナロジーの導入
多久和 理実
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ジャーナル オープンアクセス

2023 年 2023 巻 2 号 p. 211-227

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抄録
歴史資料とそれを保存する場である博物館や文書館には、利他的な側面がある。これまで未来の人類研究センターでは、利他が生じる場の例えとして「余白」「うつわ」そして「通路」という言葉が用いられてきたが、これらのアナロジーでは歴史資料に特有の失われやすさのニュアンスが伝わりにくい。本論考では、新たな利他のアナロジーを探究するため、フランシス・ベーコンを参照して、歴史資料を「苗」に、保存の場を「苗床」に、歴史記述を「庭園」に例える。失われやすい歴史資料の代表例は、兵器開発、公害、研究不正のような「負の歴史」を伝える記録である。記録が失われた事例として、東京工業大学関係者の戦争体験を取り上げる。失われた記録の痕跡たどる方法を、筆者の経験に基づいて、(a) 消されたはずなのに残ったモノ、(b) ひっそり残されたモノ、(c) 書き換えられたモノ、という 3 パターンに分けて紹介する。これらの事例から、歴史資料の保存について「苗を苗床で保存し、庭園が造られるのを待つ」というアナロジーの有効性を確認する。最後に、記録という「苗」を未来に残すために筆者が実践している、「横断科目:東工大のキャンパスに親しむ」の取り組みを紹介する。
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© 2023 未来の人類研究センター
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