コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
査読論文
第二次大本事件が残したもの
日中戦争・「大東亜戦争」下における道院・世界紅卍字会の「日本化」
玉置 文弥
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2023 年 2023 巻 2 号 p. 95-131

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抄録

本論文では、戦前期日本最大の宗教弾圧たる第二次大本事件(以下、事件)が残したものとしての世界紅卍字会後援会(以下、後援会)に着目し、その経緯・活動実態を明らかにする。
後援会は道院・世界紅卍字会の「後援会」であるが、道院とは 1921 年済南において正式に発足した中国の宗教・慈善団体である。扶乩や静座を活動の核心とし、「五教合一」や慈善による「救世」を主唱した。それを担った世界紅卍字会は、信者および会員に政治家や軍人、資本家など有力者が多かったことから、災害救援や病院、学校、銀行の経営など幅広い慈善事業を展開出来た一方で、政治にも関与した。その過程で紅卍字会は 1923 年に大本教と提携し、「連合運動」(1923-1935)を展開する。両団体は、組織・教義の両面で影響しあいながら、政治的には「満蒙独立」、宗教的には「宗教統一」の目的を創出・接合して融合し、「満洲国」建国運動など様々な活動を行った。
その後事件によって大本教が壊滅したのちは、連合運動も消滅したが、そこに現れたのが後援会である。そこには旧大本教信者や心霊研究者、軍人、政治家など多種多様な人物が参加し、それぞれの思惑が交錯する中で、外務省文化事業部の助成を受けて活動していた。中国本土の紅卍字会に対する寄付や、その紹介、また心霊実験などを行っていたようであるが、その目的は、「日満支親善」「大東亜戦争完遂」にあった。こういった活動はしかし、中国本土の紅卍字会とはほとんど関係なく行われ、やがて神道系サークル篁道大教に合流していく。
すなわち、事件の残した連合運動を、紅卍字会の「日本化」によって「復活」させようとしたのがこの活動であったと考えられる。本論文ではその観点から後援会の実態を明らかにし、日中戦争・「大東亜戦争」期における、宗教・信仰・心霊と政治・国家・戦争の複雑な絡み合いを浮かび上がらせることを目指す。

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