コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
査読論文
現代日本の養蚕業における供養精神
人間と蚕の関係へのまなざし
小澤 茉莉
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ジャーナル オープンアクセス

2024 年 2024 巻 3 号 p. 162-191

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抄録
近年国内外で食肉や毛皮といった人為的な殺生を伴う業界に対する批判が顕在化しており、人間と動物の関係自体が再考されている。文化人類学においては、人間と動物間のみならず多種との関係を捉える「マルチスピーシーズ民族誌」が注目されている。すなわち、人間中心主義を超える分析枠組みとして、これまでの二分法的な関係ではなく、人間と多種との相互関係をまなざす新たな潮流が生まれているのだ。他方、人間という存在に依拠して展開されてきた脱人間中心主義の議論自体に対する批判も見られることから、今後文化人類学において、フィールドワークを通していかにして人間が他種をまなざしているのかを精緻に調査する必要がある。
そこで、本研究では、人間と他種の関係の実態およびいかにして人間が他種を認識しているのかを調査するため、これまで数千年にわたって生糸生産のため蚕を育て、繭を生産する養蚕という生業と、養蚕農家の蚕に対する供養精神に注目する。具体的に、第1章では文化人類学における人間と動物の関係をめぐる議論や、マルチスピーシーズ民族誌という分析枠組み、本研究で焦点を当てる供養精神について整理する。第2章では、養蚕の具体的な工程について記すとともに、今日に至るまでの養蚕の歴史や、養蚕農家たちの間で信仰されてきた養蚕信仰について記述する。第3章では、本研究における調査対象や調査方法等について、続く第4章では関東甲信越地方の8名の養蚕農家を対象とした半構造化インタビューの結果を記す。そして第5章では、本研究のインタビュー結果を踏まえたうえで、今日における供養精神の実態および人間と蚕の関係について考察と分析を行う。最後に、結びとして本研究全体をまとめ、今後の研究の展望について記述する。
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© 2024 未来の人類研究センター
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