コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
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コモンズ 第3号
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対談
特集
査読論文
  • F. ソディの貨幣論の批判的検討を通して
    江原 慶
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 109-134
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、エコロジー経済学のなかで貨幣論を論じる機運が高まっている。環境危機に対処しながらも、貨幣経済が少なくとも当面の間は続くとすれば、そこでの貨幣システムのあり方が明確にならなければならない。こうしてエコロジー貨幣論に注目が集まっている。
    エコロジー貨幣論の祖としては、しばしばフレデリック・ソディがあげられる。ソディは化学者として 20世紀初頭に活躍し、経済学への熱力学の法則の適用を先駆的に提唱した人物である。しかしソディの貨幣論は難解で、経済学史上の位置づけも明確にされてきたとはいえない。
    本稿では、現代の貨幣論研究の知見から、ソディの貨幣論を読み解きつつ、その意義と問題点を明らかにする。その上で、エコロジー貨幣論の一つの基本思想として、脱成長貨幣の構想を示す。
    現代の貨幣論は、(1) 商品貨幣説と信用機構論からなるマルクス経済学、(2) 貨幣数量説と外生的貨幣供給論からなる主流派経済学、(3) 表券貨幣説と内生的貨幣供給論からなるポスト・ケインズ派(PK)経済学、の3派に大別される。ソディの貨幣論は、主流派的な側面を多分にもちながら、概ねPK貨幣論に位置づけられる。
    しかし、環境制約に貨幣発行が限界を画されるというエコロジー貨幣論は、本来PK貨幣論的視点にそぐわない。ただし、貨幣発行の元手が労働力商品になっているなら、それは一見「無からの創造」でありつつ、環境制約に直面するケースとなる。
    現代において、労働力商品を元手とした貨幣発行部分で最も規模が大きいのは、国債を裏付けとする部分である。国債の利払いはひろく労働者層への課税でまかなわれているとすると、国債増発は「労働力の証券化」と解せる。
    国債の増発は労働力を経済成長へと駆り立てる。経済成長が環境制約に直面するとするなら、国債の発行制限がエコロジー貨幣論の観点からは支持されなければならない。環境制約を踏まえた国債管理政策が、脱成長貨幣の具体策の姿ということになる。
  • 忻然 石, 調 麻佐志
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 135-161
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    音響技術の機械化以来、新技術は音楽実践に影響を与え続け、それが音響技術研究の主要な研究対象の一つとなっている。本研究は、新しい音響技術の典型事例として初期デジタル・シンセサイザーの一つ、Fairlight CMIに注目し、その日本における受容と定着の過程を明らかにし、さらに、それが80年代日本の音楽シーンに与えた影響を明らかにすることを目的とする。Fairlight CMIの設計者は当初、その製品が強力なデジタル・シンセサイザーとして使用されることを意図していたものの、技術の「解釈の柔軟性」とユーザの主体性の反映の結果、英国においてと同じく日本でも現実にはそのサンプリングとシーケンサーという2つの機能が特に好んで使用されることとなった(Harkins 2015, 2016)。さらに、Fairlight CMIの受容過程はそのような単純な描像にとどまらず、ユーザによってFairlight CMI に対するモチベーション、使用法、認識が大きく異なっていた。本研究では、日本の著名な音楽家や編曲者4名に注目して、Fairlight CMIがどう使用され、どう受容されたか、また、それが設計者の当初の意図とどう異なっていたかを明らかにする。Fairlight CMIの音楽文化への導入は、そのユーザと聴衆に、当時の音楽にかかる美意識と伝統について多くの議論、再考、さらには再定義を引き起こし、最終的に音楽実践を再構築した。Fairlight CMIがユーザによって積極的に設計者の想定と異なる扱いを受けたことで、とくにサンプリングとシーケンスの機能の積極的な使用という点で、音楽文化に影響を与え、最終的にはそれを再構成することになった。
  • 人間と蚕の関係へのまなざし
    小澤 茉莉
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 162-191
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    近年国内外で食肉や毛皮といった人為的な殺生を伴う業界に対する批判が顕在化しており、人間と動物の関係自体が再考されている。文化人類学においては、人間と動物間のみならず多種との関係を捉える「マルチスピーシーズ民族誌」が注目されている。すなわち、人間中心主義を超える分析枠組みとして、これまでの二分法的な関係ではなく、人間と多種との相互関係をまなざす新たな潮流が生まれているのだ。他方、人間という存在に依拠して展開されてきた脱人間中心主義の議論自体に対する批判も見られることから、今後文化人類学において、フィールドワークを通していかにして人間が他種をまなざしているのかを精緻に調査する必要がある。
    そこで、本研究では、人間と他種の関係の実態およびいかにして人間が他種を認識しているのかを調査するため、これまで数千年にわたって生糸生産のため蚕を育て、繭を生産する養蚕という生業と、養蚕農家の蚕に対する供養精神に注目する。具体的に、第1章では文化人類学における人間と動物の関係をめぐる議論や、マルチスピーシーズ民族誌という分析枠組み、本研究で焦点を当てる供養精神について整理する。第2章では、養蚕の具体的な工程について記すとともに、今日に至るまでの養蚕の歴史や、養蚕農家たちの間で信仰されてきた養蚕信仰について記述する。第3章では、本研究における調査対象や調査方法等について、続く第4章では関東甲信越地方の8名の養蚕農家を対象とした半構造化インタビューの結果を記す。そして第5章では、本研究のインタビュー結果を踏まえたうえで、今日における供養精神の実態および人間と蚕の関係について考察と分析を行う。最後に、結びとして本研究全体をまとめ、今後の研究の展望について記述する。
  • イヴォンヌ・レイナーの作品を中心に
    白尾 芽
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 192-218
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本論は、1960年代アメリカで生まれたダンスの動向であるポストモダンダンスの中心的人物であったイヴォンヌ・レイナーの作品におけるダンサーと観客の関係性を論じ、身体を介した共感とは何かを明らかにするものである。
    ポストモダンダンスの振付家/ダンサーたちは、物語や感情の表現に重きを置く伝統的なダンスへの抵抗として日常的な動作や即興を取り入れた。なかでもレイナーはダンサーと観客の関係性に意識的な振付家であり、物語への没入を否定して、見る−見られるという関係そのものをダンスの問題として扱った。本論では、現在の一般的な共感論を踏まえ、ダンスの歴史において想定されてきた受動的な観客像に抗する実践としてレイナーの作品を検討する。そのうえで、身体を通して自他が重なり合うのではなく、むしろ自己と他者の差異を発見することで生まれる共感のあり方を「身体的共感」と定義し、それがレイナーの作品でどのように試みられていたのかを分析する。
    ベトナム戦争の報道が盛んに行われていた当時、他者の身体を見るということは一つの倫理の問題であった。レイナーは「見ること」そのものを観客の能動性として捉え、その窃視症的な欲望を暴くことによって、あるいは身体的負荷を課すことによって、ダンサーと観客の距離を模索していた。その実践は、他者との関係にもう一度身体を取り戻す身体的共感の契機を示している。
  • 国内における大麻使用の実践の分析
    生田 和余
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 219-243
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    古来より世界各地で有用な農作物として活用されてきた大麻(学名 Cannabis sativa L.)は、20世紀初頭に至るとその向精神作用が問題視されるようになり、国際的に利用が規制されるようになった。ところが、近年では大麻成分が有する医療資源としての価値が注目されるとともに、世界保健機関(WHO)をはじめとした国際機関によって大麻使用のリスク評価が見直されたこともあり、各国において大麻は「医薬品」だけではなく「嗜好品」としても規制緩和されるような潮流が進行している。
    このような国際的な趨勢は日本にも影響を及ぼし、これまで膠着していた大麻規制に関する討議が2021年より大きく動き始めているが、その一方で日本の施策に関しては多くの問題点が指摘されている。とりわけ、これまで日本の行政は「ダメ。ゼッタイ。」という標語に象徴される「絶対禁止主義」的な態度を墨守してきたが、そこには誇張を含む客観性を欠いた大麻の表象が散見される。医学的なエビデンスというよりは行政やメディアが作り出したイメージが独り歩きしている現在の日本の状況は、大麻をめぐる議論を行うための情報基盤が十分に整備されていないとも言える。本研究はこうした社会的な課題に取り組むべく行われたものである。
    本論考の構成は以下のようになっている。第1章では大麻の基本的な情報を整理し、第 2 章では筆者が「市中大麻使用者」18 名を対象に行なったインタビュー調査について報告する。第 3 章では社会学や人類学の先行研究を参照しつつ、そもそも「ドラッグ」とは何かについて考察し、そうした表象が「生権力」(ミシェル・フーコー)によって社会的に構築されるものであることを確認する。また、現在の日本の大麻行政の問題点を指摘し、既成概念となっている医療用/嗜好用という既成の大麻の分類についても批判的に考察する。本研究によって得られた成果が、今後の日本の大麻政策をめぐる社会的討議の一助となることを望んでいる。
  • AI美空ひばりとの比較において
    高木 良子
    2024 年 2024 巻 3 号 p. 244-276
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、故人の姿を模した2つの人形「遺人形」と「おもかげ人形」を対象とし、これらの「人形を介し、生者(遺族)はどのように死者を認知しているのか」を問いとする。死者と人形という非生者、非人間と生者との関わりをとらえる枠組みとして、岩田慶治のアニミズム論、アクターネットワーク理論を補助線とした。フィールドワークで語りを①人形をめぐる癒しの構造、②人形の身体性と遺影との違い、③人形がもつ「余地」とAI故人という3つのテーマに分け論じた。続く考察では、分析テーマの③の人形がもつ「余地」に死者はどのように立ち現れるのかについて、タイラーと岩田の2つのアニミズム論を論じた長谷(2009)の論考から「見顕し」という対象認知の仕方を援用し論じた。また、今後の課題として、VRやAIといった最新技術をつかって「見顕し」の構図を実現するにはどのようなアプローチが有効なのかを考える手がかりとして、岡田(2012)の「弱いロボット」という概念を参照し、弱いロボットと故人を模した人形の「引き算のデザイン」という共通点に着目し、未来の死者の表象について考察した。
  • 2024 年 2024 巻 3 号 p. 277-278
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
  • 2024 年 2024 巻 3 号 p. 279-280
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
  • 2024 年 2024 巻 3 号 p. 281
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル オープンアクセス
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