近年、エコロジー経済学のなかで貨幣論を論じる機運が高まっている。環境危機に対処しながらも、貨幣経済が少なくとも当面の間は続くとすれば、そこでの貨幣システムのあり方が明確にならなければならない。こうしてエコロジー貨幣論に注目が集まっている。
エコロジー貨幣論の祖としては、しばしばフレデリック・ソディがあげられる。ソディは化学者として 20世紀初頭に活躍し、経済学への熱力学の法則の適用を先駆的に提唱した人物である。しかしソディの貨幣論は難解で、経済学史上の位置づけも明確にされてきたとはいえない。
本稿では、現代の貨幣論研究の知見から、ソディの貨幣論を読み解きつつ、その意義と問題点を明らかにする。その上で、エコロジー貨幣論の一つの基本思想として、脱成長貨幣の構想を示す。
現代の貨幣論は、(1) 商品貨幣説と信用機構論からなるマルクス経済学、(2) 貨幣数量説と外生的貨幣供給論からなる主流派経済学、(3) 表券貨幣説と内生的貨幣供給論からなるポスト・ケインズ派(PK)経済学、の3派に大別される。ソディの貨幣論は、主流派的な側面を多分にもちながら、概ねPK貨幣論に位置づけられる。
しかし、環境制約に貨幣発行が限界を画されるというエコロジー貨幣論は、本来PK貨幣論的視点にそぐわない。ただし、貨幣発行の元手が労働力商品になっているなら、それは一見「無からの創造」でありつつ、環境制約に直面するケースとなる。
現代において、労働力商品を元手とした貨幣発行部分で最も規模が大きいのは、国債を裏付けとする部分である。国債の利払いはひろく労働者層への課税でまかなわれているとすると、国債増発は「労働力の証券化」と解せる。
国債の増発は労働力を経済成長へと駆り立てる。経済成長が環境制約に直面するとするなら、国債の発行制限がエコロジー貨幣論の観点からは支持されなければならない。環境制約を踏まえた国債管理政策が、脱成長貨幣の具体策の姿ということになる。
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