コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
査読論文
「医療」と「嗜好」のあわい
国内における大麻使用の実践の分析
生田 和余
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ジャーナル オープンアクセス

2024 年 2024 巻 3 号 p. 219-243

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抄録

古来より世界各地で有用な農作物として活用されてきた大麻(学名 Cannabis sativa L.)は、20世紀初頭に至るとその向精神作用が問題視されるようになり、国際的に利用が規制されるようになった。ところが、近年では大麻成分が有する医療資源としての価値が注目されるとともに、世界保健機関(WHO)をはじめとした国際機関によって大麻使用のリスク評価が見直されたこともあり、各国において大麻は「医薬品」だけではなく「嗜好品」としても規制緩和されるような潮流が進行している。
このような国際的な趨勢は日本にも影響を及ぼし、これまで膠着していた大麻規制に関する討議が2021年より大きく動き始めているが、その一方で日本の施策に関しては多くの問題点が指摘されている。とりわけ、これまで日本の行政は「ダメ。ゼッタイ。」という標語に象徴される「絶対禁止主義」的な態度を墨守してきたが、そこには誇張を含む客観性を欠いた大麻の表象が散見される。医学的なエビデンスというよりは行政やメディアが作り出したイメージが独り歩きしている現在の日本の状況は、大麻をめぐる議論を行うための情報基盤が十分に整備されていないとも言える。本研究はこうした社会的な課題に取り組むべく行われたものである。
本論考の構成は以下のようになっている。第1章では大麻の基本的な情報を整理し、第 2 章では筆者が「市中大麻使用者」18 名を対象に行なったインタビュー調査について報告する。第 3 章では社会学や人類学の先行研究を参照しつつ、そもそも「ドラッグ」とは何かについて考察し、そうした表象が「生権力」(ミシェル・フーコー)によって社会的に構築されるものであることを確認する。また、現在の日本の大麻行政の問題点を指摘し、既成概念となっている医療用/嗜好用という既成の大麻の分類についても批判的に考察する。本研究によって得られた成果が、今後の日本の大麻政策をめぐる社会的討議の一助となることを望んでいる。

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