抄録
Hawkins-Simon の条件とPerron-Frobenius の定理は、マルクス経済学の生産論および生産価格論の根幹をなすものである。しかし、いずれも標準的な数学の内容とは言い難く、特にHawkins-Simon 条件は経済数学の教科書以外で解説されることは稀である。
他方で、マルクス経済学の教科書や研究書では、いずれも証明済みの命題として扱われることが多い。そのために、証明のプロセスを知るには、経済数学の教科書を参照することになる。
しかし、経済数学の教科書の内容は、多くの経済学徒にとってかなり難解で、分量も多い。しかも、Hawkins-Simon の条件の性質とPerron-Frobenius の定理の証明だけをフォローしたくても、結局通読を必要とするケースが多い。
そのため、Hawkins-Simon の条件とPerron-Frobenius の定理は、そのマルクス経済学にとっての重要度は高いにもかかわらず、学習しにくい内容になっている。そこで本稿では、大学教養レベルの、ごく初歩的な線形代数の知識のみを前提として、Hawkins-Simon の条件とPerron-Frobenius の定理を解説・証明する。
マルクス経済学の生産論・生産価格論において、最も基本的なレベルに属する部分だけに内容を絞ることで、分量を抑えてある。証明プロセスのベースは、経済学分野でもよく参照される二階堂副包『経済のための線型数学』(培風館、1961 年)であるが、説明が省略されている箇所を補い、また用語も今のものにアップデートしている。
第1 節(永原担当)では、数学的議論が展開される。ここが上で述べた本稿の主要な貢献部分である。
第2 節(江原担当)では、すでに広く知られていることであるが、Hawkins-Simon の条件とPerron-Frobenius の定理の経済学的意味を述べ、第1 節の貢献をマルクス経済学の研究の観点から補強する。さらに、2 部門の一般的なケースで、Hawkins-Simon の条件の経済学的性質の解説、「マルクスの基本定理」およびPerron-Frobenius の定理の証明を与える。これによって、高校数学「数学I」までの範囲で、Hawkins-Simon の条件とPerron-Frobenius の定理の経済学的エッセンスはフォローできる。