抄録
本論文では,他者の言動などを過度に意識して,それらに翻弄され,おもに赤面症状や対人場面での強い緊張感に苦しみ続けた対人恐怖症の男性クライエントの事例を取り上げた。症状の背後には,他者への敏感性が強く,自己の欲求や意思を抑え,他者の反応や意向に合わせて自己の言動やあり方を決定するという他律的な問題傾向が示された。そこで,この問題に焦点を当て,クライエントの段階に合わせて,他者反応の想定状況などに調整や工夫を加えながら,対人関係場面で生じる不安を低減させ,場面に即して自己の意思や感情を適切に表明できるよう,社会的自己効力感を高めることなどに取り組んだ。さらに,他者との出会いや自己実現などのさまざまな社会的な試みを通じ,心理的構造の問題理解と新たな適応的自己への変容が進み,それらが結びつき両者が連携を強める中で,他律性が改善し,赤面などの対人恐怖症状が解消された。