治療的現前性は,心理療法における本質的な治療的態度である。COVID-19パンデミックにより遠隔カウンセリングが普及した現在,治療的現前性を高めるための新たな方法を見いだす必要性が高まっている。本研究では,治療的現前性目録(TPI)の日本語版を開発するとともに,遠隔で治療的現前性を体験することの可能性とその効果を探ることを目的とした。研究1では,日本語版TPIを作成し,その信頼性と妥当性をオンラインカウンセリングで検討した。研究2では,治療的現前性とクライエントの心理的変容の関連について検討した。研究1の結果から,日本語版TPIは十分な信頼性と妥当性をもつことが示唆された。研究2では,オンラインでも治療的現前性を体験できることが示された。また,初回セッションで強い治療的現前性を体験したクライエントにおいて対人的疎外感が継続的に減少した。これらの結果から,対面が不可能な場合においても,治療的現前性を通して孤独に苦しむクライエントを支援できる可能性が示されたと考えられる。
本研究では,オンライン会議システム上の視覚的匿名性に焦点を当て,自己開示のしやすさに与える影響を検討することを目的とし,条件によって,自己開示後の気持ちや,聞き手への印象にどのような違いがあるのかを検討した。画面上での顔出しの有無の組み合わせによって,顔映像あり群,顔映像なし群,実験者のみ映像あり群の3群に分け,実験者のみ映像有り群,顔映像有り群,顔映像なし群の順に自己開示がしやすく,自己開示後の気持ちや,聞き手への印象もポジティブになるという仮説のもと,各群20名ずつ,計60名の参加者を対象に実験を行った。結果から,自分の姿や表情も含めて知ってもらえた,わかってもらえた,と感じられることが,オンライン会議システムにおける自己開示にとって重要である可能性が示唆された。この結果には,オンライン会議システムの特徴,参加者の属性などが影響していることが考えられた。本研究では,オンライン会議システム特有の話しやすい状況があることが明らかになり,臨床場面のオンラインカウンセリングにおいて,相談者が話しやすい状況を設定する上でのひとつのエビデンスを示したといえる。
本研究の目的は児童期の援助要請研究を展望することである。研究疑問は「小学生の援助要請の生起過程における関連要因(影響要因)は何か」「どのような援助要請の測定の構成要素が扱われているか」「援助要請の結果として明らかになっていること(結果要因)は何か」であった。2002年から2021年における220件の研究から,適格基準に合う15件が抽出された。スコーピングレビューの結果,すべての研究が援助要請の影響要因である促進・抑制要因を検討していたが,結果要因である援助要請の結果に関する研究は少数であった。援助要請の測定特性の特徴については,援助要請行動の量的側面(過去4週間の行動頻度など),援助要請意図/意志のほうが援助要請態度,認知,行動の質的側面(スキル,スタイル)よりも多く検討されていた。児童期における過去の援助資源利用経験の要因と援助要請の関連の検討,援助要請態度,認知,行動の質的側面の特徴,援助要請の結果という3つの未解決の課題(リサーチギャップ)が議論された。
全般不安症の一事例に対して,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(以下,ACT)に基づく介入を進めた経過を報告した。#1~#6の介入は対面で実施し,#7~#13と2回のフォローアップはコロナ禍のため面接が3か月中断となった後,遠隔で実施した。#1~#6では“心配に気付いたら現実に注意を戻す”という方針で進め,適応的な行動の増加など一定の効果はみられていたが,心配から現実に注意を切り替える行動の中には回避の機能を有する行動も含まれていたと考えられた。そして,ACTで従来焦点が当てられてきた“思考や感情はコントロールする必要がある”という変化のアジェンダだけでなく,“心配していると危険なことが起きてしまう”というアジェンダにより回避が維持されていることが考えられた。そこで,#7以降は後者のアジェンダに焦点を当て,“心配と共存しながらやりたいことを続ける”という方針に切り替えることや,セラピーの一環として面接を終わらせることでアジェンダに反証する体験を促した。その結果,心配に囚われる度合いが減少し,行動レパートリーが拡大するとともに,全般性不安症状は軽快し,終結後3か月まで軽快状態が維持していることが確認された。
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