抄録
本稿では,養育者からの虐待や分離等を経験し,思春期になって行動上の問題を示した男児Aに対して行った,ライフストーリーワークについて報告する。ライフストーリーワークとは,子どもが重要な他者と共に自身の過去を「取り戻す」作業であり,児童福祉領域において,自身の出自や家族背景,児童養護施設等への入所理由といった子どもの人生の根幹にまつわる事実を共有し,過去と未来をつなげる作業を指している。本事例においても,Aは幼少期からの思い出を語り,それをライフストーリーブックという形にまとめることで,これまでは考えないようにしてきたという自身の過去について「知る」ことが可能となった。今後のライフストーリーワークの実践においては,アセスメントや心理教育といった,トラウマケアの核となる要素を踏まえつつ,個々の子どもに応じたやり方を工夫して実施することが必要であると考えられた。また,その際のモデルとして,近年アメリカで注目されているTrauma-informed careの視点についても考察した。