抄録
救急医療現場に搬送されてきた患者の妻は,主治医が病状説明を行おうとするとパニック状態に陥り,話ができない。医療相談員である筆者は,主治医から患者の妻に対する介入依頼を受けて面接を重ねた。その結果,妻であるクライエントは,情緒の背景にあるトラウマ,夫が救急患者となり危機状態に陥ったことに対する妻としてのトータルペイン,さらにはクライエント自身の幼少期の体験を言語化するに至り,最終的には悲痛な人生経験から培われてきたと思われるレジリエンスによって自ら自己を統合させ,この事例がクライシスカウンセリングとなった。家族への心理援助が依然として未発達なわが国の救急医療現場で,筆者はこのクライエントとの出会いによってカウンセラーによる心理援助の重要性を認識したため,本事例を報告した。面接過程はプライバシーに十分に配慮した上で逐語での再現に努め,本事例によって筆者が実感させられた救急医療現場におけるカウンセラーの存在意義を実証し,家族に対する心理援助の重要性についても言及した。