抄録
本研究では、悲劇の記憶を象徴する空間の保存プロセスを明らかにし、空間の残存と悲劇の記憶の継承メカニズ ムの関係性について考察を行った。悲劇の記憶を象徴する空間は、一般的な歴史的建造物とは異なり、悲劇性及びそこから得られる教訓が保存価値と なる。それゆえに、保存にあたっては関係主体間で教訓を共有し、悲劇を乗り越えるプロセスが不可欠となる。 以上のプロセスを経て空間が残存した事例においては、ダークツーリズムとも言える観光・学習プログラムを展開 している。関係主体や地域社会という枠を超えた記憶の継承が可能になるという点で、空間が残される事の意義が 示唆される。