抄録
本稿は簡易宿所の曖昧性の形成を、「社会施設」としての簡易宿所の成立と、売春防止法との関わりおよび簡易宿所創設時の議論から明らかにする。また、簡易宿所に対する政策的対応と、簡易宿所の宿泊施設類型を捉え、オーバーツーリズム期を経て曖昧性を内在した簡易宿所がどのような変容を経験したか明らかにすることを目的とした。
労働者のための簡易宿泊所と売春宿の適法化を背景に1957年に新たに定義づけられた簡易宿所では、曖昧性を孕まざるを得ない制度設計となったことが推測された。創設時から内在する制度的な曖昧さと、2016年の設置基準の緩和および現在まで政策的対応が不在であることから、「宿泊する場所を多人数で共用する施設」には当初想定されていなかった宿泊特化型の簡易宿所がオーバーツーリズム期に急増したと考えられる。