抄録
【目的】挙上速度を基準としたVBT(Velocity Based Training)は、負荷重量を基準としたレ
ジスタンストレーニングと比較して、筋力、パワー、筋肥大の改善効果が高いことが報告され
ている。一方で、身体や物体を自由空間に射出するバリスティックエクササイズ(BE)は、同
一の負荷を用いた通常のレジスタンスエクササイズよりも、有意に高いスピードと力を発揮す
ることが明らかになっている。しかし、BEとVBTのような挙上速度を全力で実施するレジスタ
ンスエクササイズを比較した研究は十分に行われていない。本研究では軽負荷のBEと高負荷・
高速条件で行うレジスタンスエクササイズとの力を比較することを目的とした。
【方法】対象者は、トレーニング経験を有する男子大学生13名(年齢:19.8±1.1歳、身長:
170.3±6.5cm、体重:75.1±9.8kg)であった。軽負荷のBEはジャンプスクワット(JSQ)で、
自体重、および20kgの負荷で10回跳躍動作を行い、力(フォース)とスピードの最大値と最低
値を分析した。高負荷・高速条件のレジスタンスエクササイズは、スクワット(SQ)最大挙上
重量(1RM)の70%、80%、90%の負荷で、コンセントリック局面を最大スピードで行うように指
示し、それぞれ1回の試技を行った。JSQとSQのフォース、およびスピードはGymAware(Kinetic
Performance社製)を用いて測定した。各試技の比較には1要因分散分析を実施し、主効果が見
られた項目は多重比較を行った。有意水準は5%未満に設定した。
【結果】ピークフォース、平均フォース、およびピークスピード、平均スピードに有意な主効
果が認められ、自体重および20kgの負荷で行うJSQの最大値は、いずれも70%、80%、90%1RMの
SQよりも有意に高値を示した。また、自体重負荷、20kgの負荷で行ったJSQのピークフォース、
平均フォース、およびピークスピード、平均スピードの最低値とSQを比較した結果、JSQのピー
ク、および平均スピードに有意な主効果が認められ、自体重および20kgの負荷で行うJSQが、
70%、80%、90%1RMの負荷で行うSQよりも有意に高値を示した。しかし、自体重および20kgの
JSQのピークフォースと自体重のJSQの平均フォースには、有意な主効果は認められなかった。
【考察】本研究の結果から、JSQのようなBEは軽負荷であっても、高速・高負荷条件のSQよりも
高い力を発揮することが明らかになった。通常のレジスタンストレーニングでは、挙上動作を
全力で行ったとしても動作の中盤以降は減速・停止してしまう。しかし、BEでは身体や物体を
自由空間に射出する瞬間まで加速し、大きな力を発揮している。したがって、高負荷・高速条
件のSQよりも軽負荷のJSQで高い力を発揮したことは、加速度の大きさや力を発揮する時間が
長いことが関与していると考えられる。一方で、BEにおいても反復回数の増加に伴う疲労の蓄
積や集中力が不足した状態では、発揮する力が低下することが明らかになった。
【現場への提言】クイックリフトやジャンプスクワットなどのBEは、古典的なレジスタンスト
レーニングよりも実施率は低い。しかし、レジスタンストレーニングにおいて適切なテクニッ
クが習得できたならばVBTを導入し、さらに高い力やパワーを獲得するためにもBEをレジスタ
ンストレーニングに段階的に加えることが必要であると考えられる。また、BEにおいても疲労
の蓄積や集中力不足を管理する手法として、挙上速度をモニタリングしながら行うVBTが推奨
される。