千葉県立保健医療大学紀要
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平成29年度学長裁量研究抄録
高齢者の生理機能に関する包括的研究
豊島 裕子世木 秀明南沢 亨
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2019 年 10 巻 1 号 p. 1_127

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抄録

(緒言)

 加齢に伴い各種生理機能は低下し,このことが高齢者の疾病リスクを高め,QOLを低下させる.健康寿命伸延のためには適切なアセスメント法で生理機能を評価し,過不足のない支援を行う事が重要と考える.高齢者生理機能のアセスメント法に関し比較検討したので報告する.

(研究方法)

 対象:前期高齢者10名,後期高齢者10名,若年健常 対照群10名を対象とした.

 測定方法:①事象関連電位P300;国際10-20電極法 のFz,Cz,Pzを関電極とし聴覚odd-ball課題を用い,Neuropack μで事象関連電位P300を記録し,そのピーク電位とピーク潜時を測定した.②嚥下時の表面筋電図の記録;オトガイ舌骨筋上に表面電極を貼付し,液体飲料・ゼリー状飲料嚥下時の表面筋電図をNeuropack μを用いて記録し,移動平均法でスムージングして得られた波形のピーク電位とピーク潜時を測定した.③ホルター心電計(FM-160,フクダ電子)で記録した心電図のRR間隔を2分ごとに周波数解析し,そのスペクトログラムから交感神経機能(LF/HF),副交感神経機能(HF)の日内変動を求めた. ④アクチグラフによる睡眠評価;腕時計型高感度3次元加速度計を用い,睡眠中の体動をZCM法で測定し,Coleの式を用い睡眠評価を行った.⑤血中指標による栄養状態の評価;アルブミン,プレアルブミン,レチノール結合蛋白,HDL・LDLコレステロールを測定した

 これらの測定値の関連を,SAS Ver9.4を用い,統計 学的に検討した.

(結果)

 ①事象関連電位P300;潜時は若年者に対し高齢者で有意に延長していた(Fz;345.3±25.0msec,403.9±86.1,p=0.02,Cz;341.1±21.4,403.0±87.6,p=0.02,Pz;340.8±19.0,409.0±82.6,p=0.01)(ttest).Pzにおける潜時=-6.8793×プレアルブミン+585.72と,プレアルブミンが減少するとP300潜時が延長する傾向を認めた(p=0.137)(回帰分析).②嚥下筋電図;ピーク潜時は液体,ゼリー共に若年者に比して高齢者で有意に延長していた(液体;若年1.2±0.4sec,高齢6.1±3.0,p=0.0001ゼリー;1.3±0.4,5.6±3.6,p=0.0006)(t-test).ゼリー飲料嚥下時の振幅は高齢者で有意に低かった(若年149.5±5.5μV,高齢46.6±57.5,p=0.001)(t-test).③自律神経機能の概日リズム;若年者の副交感神経機能(HF)には21:00頃から亢進し4:00頃にピークを迎え,6:00には低値に戻る有意な概日リズムを認めた(二元配置分散分析p=0.001).しかし,前期高齢者・後期高齢者ではこのような概日リズムは消失していた(二元配置分散分析p=0.001).④睡眠評価;高齢者と若年者の間に睡眠時間,中途覚醒回数の有意差は認めなかった(325.9±92.1min,350.2±95.5,NS,12.5±6.6回,12.0±9.2,NS).睡眠潜時と中途覚醒時間は高齢者で有意に延長していた(若年4.4±3.9min, 高齢13.2±9.7,p=0.023,12.5±6.6,45.9±19.9,p=0.05)(t-test).

(考察)

①認知機能の指標P300潜時は高齢者で有意に延長し,栄養状態が低下するほど延長する傾向を認めた.これより高齢者の栄養状態は,その認知機能に何らかの影響を与えることが示唆された.②高齢者は若年者に比して同一のものを嚥下するのに要する時間が有意に長かったことから,嚥下機能の低下と,誤嚥リスク増加を疑わせる所見であった.また,高齢者においてゼリー飲料は嚥下時の筋力が少なくて足りることがわかり,これまで高齢者が誤嚥しにくい飲料形態としてゼリーが推奨されてきたことに一致する結果であった.③若年者に認められる,夜間に亢進する副交感神経機能の概日リズムが高齢者で消失していたことから,高齢者の夜間の身体修復機能・消化吸収機能などの低下が示唆された.これより高齢者の夕食は,消化・吸収されやすい食形態で与えることが重要と考えられた.④アクチグラフ結果より高齢者では入眠潜時が延長し,このため夜間覚醒したら再度眠りにつくまでに時間を要し,これが睡眠満足感を減らし,睡眠の質を低下させる原因と考えた.

(倫理規定)

 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の 承認を得て行った(2017-3).

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