千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
地域住民つながりの場チェックリストの作成に向けたパイロットスタディ
有川 真弓松尾 真輔
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_66

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抄録

(緒言)

 少子高齢化が進む我が国において,すべての住民が,住み慣れた地域で生活を続けるために地域包括ケアシステムの構築が喫緊の課題となっている1).一部の先駆的な作業療法士は,リハビリテーション専門職としての視点とこれまでの地域支援の経験から,生活の視点で地域の人材資源や環境資源(以下,地域資源)を評価し,支援を行っている.これらの作業療法士が経験から行っている評価の視点を集積し整理することで,地域支援の経験が少ない作業療法士でも簡便に地域資源を評価できるチェックリストを作成できるのではないかと考えた.本研究の目的は,作業療法士が障害種別や年齢に関係なく生活の視点で地域資源を評価できるチェックリストを作成することである.

(研究方法)

 調査対象者は,先駆的に地域にて就労支援を行っている作業療法士3名であった.対象者が勤務する地域は東北地方1名,北関東地方1名,南関東地方1名であった.

 先行研究を参考に作成したインタビューガイドに沿って面接を実施した.面接内容は,作業療法士が地域支援を行う時のアセスメントの視点,確認するポイント,地域資源の活用方法等であった.人的資源,物理的環境資源,社会的資源に分けて聞き取った.インタビューの所要時間は1名あたり1~2時間程度であった.面接実施前に文書と口頭にて説明し同意を得て行った.

 インタビューはICレコーダーで記録し,機密保持契約を結んだ業者に委託して逐語録にした.データは切片化したのち,類似性に基づき分類,グループ化して,カテゴリーを作成した.

(結果)

 その結果,①地域の特性と課題,②対象者の生活を支える組織とサービス,③障害者の生活を支える人々,④支援に必要な情報収集,⑤地域での支援に生かす人脈作り,⑥地域力底上げのための啓蒙活動の6つのカテゴリーに分類された.①地域の特性と課題は,「交通手段と移動距離」,「地域の歴史」,「産業特性」,「人口特性」,「地域住民の思考特性」,「地域の課題」「課題に対する取り組み」の7つのサブカテゴリーで構成された.②対象者の生活を支える組織とサービスは,「行政機関」,「障害福祉機関」,「医療機関」,「公的社会保障」,「民間サービス」,「地域住民で構成された団体」,「企業団体」の7つのサブカテゴリーで構成された.③障害者の生活を支える人々は,「医療専門職」,「障害福祉専門職」,「医療障害福祉以外の専門職」,「行政職」,「地域住民で構成された団体の人々」,「企業団体の人々」の6つのサブカテゴリーで構成された.④支援に必要な情報収集は「地域特性に関する情報」と「産業等に特化した情報」の2つのサブカテゴリーで構成された.⑤地域での支援に生かす人脈作りは,「医療・障害福祉専門職との繋がり作り」,「地域住民との繋がり作り」,「各種団体との繋がり作り」の3つのサブカテゴリーで構成された.⑥地域力底上げのための啓蒙活動は,「地域全体の障害理解と障害者との共生を目的にした啓蒙活動」,「地域全体の障害理解と障害者との共生を実現する活動」の2つのカテゴリーで構成された.

(考察)

 就労支援に携わる作業療法士は,地域全体の特性や課題を把握した上で,障害者支援のために医療障害福祉関連の地域資源だけでなく,企業団体との連携や地域住民を巻き込んだ活動に取り組んでいることが明らかになった.今後は就労支援以外の地域支援を行う作業療法士への聞き取りを進め,地域資源を網羅的に評価できるチェックリストの作成を目指していきたい.

(倫理規定)

 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した.

(利益相反)

 本研究に関して申告すべきCOI状態はない.

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