千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
平成30年度学長裁量研究抄録
地域包括ケアシステムにおける多様な看護の地域貢献活動に関する研究
─ ロジックモデルを用いたフリーランス活動の構造 ─
成 玉恵越田 美穂子
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

2020 年 11 巻 1 号 p. 1_79

詳細
抄録

(緒言)

 近年,医療・福祉のニーズ拡大に伴い,看護職による多様な地域貢献活動が報告されるようになった1).しかし,その多くは実践活動報告に留まり活動の内容は不明な点が多い.これまで,活動のアカウンタビリティを高めることを目的に,ロジックモデルを用いて,看護職の地域貢献活動の一つである,NPO活動の可視化に取り組んできた.本研究では,フリーランスとして活動する看護職の地域貢献活動に注目し,ロジックモデルを用いてその活動の構造を明らかにする.

(研究方法)

 研究参加者:研究者のネットワークサンプリングにより抽出された看護職のうち,研究の同意を得た看護職2名とした.

 調査方法:ロジックモデルの構成要素(資源,活動,アウトプット,アウトカム,インパクト)に関するデータを半構成的面接調査および関係する二次資料から収集した.

 分析方法:調査データから,ロジックモデルの各構成要素の内容を抽出し,その関連性を矢印で示しロジックモデルを生成した.

(結果)

 研究参加者の属性と活動の概要:参加者Aは40歳代女性,助産師・心理カウンセラーであった.フリーランスとして11年間,地域で子育て相談,女性のからだや産前産後の情報を発信していた.参加者Bは50歳代女性,看護師であった.行政を退職後,フリーランスとして13年間,地域で障害児とその親の居場所を提供する活動をしていた.

 ロジックモデル表:参加者Aに関しては,6の資源,5の活動,8のアウトプット,6のアウトカム,2のインパクトが抽出された.参加者Bに関しては,6の資源,5の活動,8のアウトプット,4のアウトカム,3のインパクトが抽出された.また,AB共通して,資源を投入し活動を実施することで実績と収益を得る事業経営の形態であった.また,これらの事業は参加者の職種の専門性が基盤となっていた.事業を実施した結果,「情報が手軽に入手できる」や「障害児とその親にとって安心できる居場所がある」等,利用者への支援の成果が表れ,それが社会の変化をもたらすインパクトとなっていることが明らかになった.また,Aの活動は,「育児相談をすることで自らが成長できる」といった,参加者自身に対するアウトカムも抽出され,看護者側の成果も表れた.

(考察)

 本研究により,フリーランスの看護職による地域貢献活動は,ロジックモデルを用いることで,資源・活動・アウトプット・アウトカム・インパクトという各要素で構成され,資源からインパクトまで一定の方向で関係性が連鎖する構造であることがわかった.これはNPO活動でも同じ結果が見られ,今回の研究で,看護職の地域貢献活動は,活動の規模や内容に違いがあっても基本的な構造に大きな違いはないことが示唆された.むしろ,フリーランスの地域貢献活動は,個人の専門的な知識や技術を売りとし,実践可能な範囲の活動を行うことによって,どのような成果を生み出し,どのように社会を変革するのか,またその活動で自分はどのように成長するのか,といった活動の方向性が具体的かつ明確であると考える.今後は,多様な看護の社会貢献活動の一つとして,地域包括ケアシステムにおいてその役割を十分に果たすことが期待される.今後は,プライベートと活動との境界が曖昧であることなど,フリーランス特有の課題を明らかにし,活動形態による特性に考慮した構造の精錬をはかりたいと考える.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(申請番号No.2018-08).

(利益相反)

 本研究に係る開示すべき利益相反はない.

著者関連情報
© 2020 千葉県立保健医療大学
前の記事 次の記事
feedback
Top