千葉県立保健医療大学紀要
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平成30年度学長裁量研究抄録
医療・介護施設における外国人労働者の定着に向けた取り組みの実態
杉本 知子相馬 由紀子上野 佳代佐伯 恭子高栁 千賀子鳥田 美紀代
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_80

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抄録

(緒言)

 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少がすすむ我が国では,中国や東南アジア諸国から看護,あるいは介護業務に従事する労働者(以下,外国人労働者)の受け入れを積極的に行うようになった.2008年には経済連携協定に基づく外国人労働者の受け入れが開始となり,2018年8月の時点で受け入れ人数の累計が5,600人を超えたことが報告されている1)

 日本に入国した外国人労働者の活躍に大きな期待が寄せられる一方で,母国への帰国を希望する者が後を絶たず,医療・介護施設の労働力として定着していない実態も指摘されている2).また,医療・介護施設の労働力の確保が年々困難になっている状況を踏まえると,外国人労働者の定着率の改善に取り組む意義は大きいと考えられる.

 そこで,外国人労働者の定着にむけて医療・介護施設内で行われている取り組みの実態を明らかにすることを目的とした調査を行うことにした.

(研究方法)

1.調査方法,対象者,調査期間

 介護保険施設や病院に勤務する日本人看護師,もしくは介護福祉士を対象とした半構成的面接調査を2019年2月~3月に実施した.

2.分析方法

 面接調査によって収集したデータの全てを逐語記録にした.その上で,外国人労働者の定着に向けて医療・介護施設内で行われている取り組みに関する記述を逐語記録の中から抽出し,カテゴリー化を行った.

(結果)

1.調査対象者の属性

調査対象者は介護保険施設に勤務する介護福祉士5名(男性3名・女性2名),病院に勤務する看護師2名(全員女性)で,専門職としての経験年数は5年以上10年未満が6名を占めた.

2.外国人労働者の定着に向けた取り組みの実態

外国人労働者の定着に向けて医療・介護施設内で行われている取り組みとして,【意思疎通の円滑化】【異文化を尊重する態度の涵養】【国家試験受験への対応】【指導体制の整備】【自己肯定感の強化】【仲間意識の醸成】【長期休暇取得の促し】の7カテゴリーが抽出された.

(考察)

調査の結果,【異文化を尊重する態度の涵養】【仲間意識の醸成】等のカテゴリーが抽出されたことから,外国人労働者の定着を促すために外国人と日本人の相互理解を基盤とした良好な関係性の構築に取り組んでいることが明らかになった.日本の臨床現場において外国人看護師と協働するには,外国人看護師の母国の文化を理解することが重要3)であること,また,新人看護師の離職には職場の人間関係が影響を与える4)ことが報告されていることから,医療・介護施設で行われている先述の取り組みが外国人労働者の定着率の改善に繋がる可能性があるのではないかと考えられた.

(倫理規定)

 本研究の実施にあたり,千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けた(承認番号:2018-035).

(利益相反)

 研究成果の発表にあたり,開示すべきCOI関係にある企業などはない.

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