2020 年 11 巻 1 号 p. 1_83
(緒言)
高齢者の栄養状態維持のために,消化機能の把握とそれに対応した食事の提供が重要と考える.消化機能測定法には種々あるが,侵襲的なものや手技の煩雑なものが多く,現場での活用は十分とは言えない.われわれは胃電図の周波数解析で新しい胃機能評価法を開発したので報告する.
(研究方法)
対象は若年健常男性12人(21.7±0.3歳).
腹壁上の胃を挟む2か所に表面電極ビトロードV(日本光電社製)を貼付し,胃電図センサDL160C(M&SE)で,バイオログDL2000(M&SE)に胃電図をsamplingtime10msecで24時間記録した.記録した胃電図は共同研究者世木が開発したソフトウエアを用い6分ごとに周波数解析した.
各被験者は12:00にバイオログを装着し24時間後に外した.記録器装着後 昼食,19:00夕食,翌日7:00に朝食を喫食した.記録日の水分摂取はミネラルウォーターを,上限1,500mlで自由摂取とした.各食事は試験食とし,エネルギー(kcal),たんぱく質(g),PFC%,食塩相当量(g)は,朝食450,15.8,15,38,47,1.2,昼食693,23.5,12,46,42,2.9とした.夕食は低塩食1149,40.9,14,45,41,5.1と高塩食1101,34.4,13,49,38,8.9を用意し,対象を2群に分け別々に投与した.
(結果)
6分ごとに周波数解析した胃電図の0.03-0.1Hzの周波数帯域と0.1-0.3Hzの周波数帯域のパワー比(P6cpm/P3cpm)を6分ごとにプロットすると,23:00~6:00の時間帯にのみ,周期性の変動が観察された.6:00~23:00の時間帯にはリズムを持った変動は認められなかった.そこで23:00~6:00の波形を再度周波数解析したところ15分に1回と30分に1回の緩やかな2種類のリズムが観察された.
以上より夜間,胃には3cpmと6cmpの2種類の自律運動が存在し,この2種類の運動は15分に1回と30分に1回の2種類のリズムでその主体性が交替していることが分かった.これらの現象は昼間には認められなかった.
また,低塩食群では30分に1回のリズム交替は明確であったが,高塩食群では全体にパワーが減少し,消失している被験者もあった.食塩以外の栄養成分と胃電図の間には関連を認めなかった.
15分に1回のリズム交替は食事の影響を受けなかった.
(考察)
これまでの報告1)と同様に,胃電図に3cpmと6cpmの自律運動を確認したが,我々の研究では明確な自律運動は夜間にのみ認められた.
胃の自律運動にはさらにリズミカルな変動があることを確認し,周期の長いリズムは食事,特に食事中の食塩量の影響を受けることがわかった.塩分の多い夕食は,夜間の胃運動のリズムを減弱させ,消化機能を減弱させることが示唆された.
また,胃には食事などの外的要因の影響を受けない強固なリズムも存在することが示唆された.
今回の研究では,高齢被験者を募ることができず,若年者を対象とした基礎的研究となった.今後高齢被験者にご協力いただき高齢群の測定を行いたい.
(倫理規定)
千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を受けて行った(2017-3).
(利益相反)
報告すべきCOIはない.