2023 年 14 巻 1 号 p. 1_81
(緒言)
パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.
病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα -シヌクレインであること,α -シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.
パーキンソン病では大脳基底核神経細胞のabnormal oscillatory activityが病態と深く関与していることが明らかとなっている.
またパーキンソン病では下部尿路機能障害を高頻度に認め,動物実験によりパーキンソン病の病変主座である黒質も排尿調節に重要であることが明らかになっている.
近年の研究により,神経活動の上昇とともに細胞外αシヌクレイン濃度が上昇することが示唆されている 1), 2).
本研究では,まず正常ラットを用いてαシヌクレインが多く発現していると考えられている黒質での細胞外αシヌクレイン濃度を測定し,電気刺激による影響を検討した.
更にαシヌクレイン濃度と黒質のδ,θ,α,β周波数帯のパワーとの相関関係を検討する
(研究方法)
・実験は正常ラット4頭を用いて行った.実験はウレタン麻酔下で黒質に細胞外液採取用透析プローブを刺入して行った.
・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.
・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis 法により行い,α シヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法を用いて行った.
刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析 (ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.
(結果)
1)αシヌクレイン濃度
刺激前の黒質αシヌクレイン濃度を1として,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激中のαシヌクレイン濃度は1.43±0.32,刺激後のαシヌクレイン濃度は2.16±0.48であり,刺激後のαシヌクレイン濃度は刺激前と比較して有意に上昇していた (p=0.043).
2 )αシヌクレイン濃度と黒質局所電場電位の各周波数帯パワーとの関係
黒質神経細胞局所電場電位から得られた各周波数帯のパワーとαシヌクレインは弱い負の相関が見られたが,統計学的に有意でなかった.
(考察)
パーキンソン病において各周波数帯のパワーと臨床症状の関係が注目されているが,今後の検討で各周波数帯のパワーとαシヌクレインに相関があることが示せれば,αシヌクレインの変動はより直接的にパーキンソン病の臨床症状と関係している可能性がある.
(倫理規定)
本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動3-218).