千葉県立保健医療大学紀要
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第13回共同研究発表会(2022.9.12~9.16)
HACCPシステム導入に向けた微生物管理手法の検証に関する研究2
下田 奏成田 奈々子髙橋 治男河野 公子菊池 裕
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2023 年 14 巻 1 号 p. 1_89

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抄録

(緒言)

 食品衛生法が改正され,2021年6月から全ての食品等事業者に危害要因分析重要管理点(HACCP)に沿った衛生管理が義務化された1).小規模食品事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ,それらの実施状況を確認する上で,施設や調理器具等の衛生状態を視覚的に確認する簡易検査が求められている.本研究は市井の食品事業者がHACCPに対応した衛生管理をすることを目的とし,簡易的な環境微生物の測定方法を検討した.

(研究方法)

1.施設

 小規模食品加工所として食品加工室A105及び実習食堂A106を想定し,食品加工学実習の実習中と終了後に環境微生物のモニタリングを行った.

 市井の食品事業者社として千葉市内の飲食店1店舗を選定し,営業中と終了後に環境微生物のモニタリングを行った.

2.モニタリング

1)空中浮遊微生物数の算出

 エアサンプラー(株式会社アイデック空中浮遊菌サンプラーIDC-500B)を用い,作業中の模擬施設及び喫食中の飲食店で空中浮遊微生物を衝突法で寒天培地に捕集し,吸引空気量1000 L 中の好気性微生物数と真菌(かび,酵母)を測定した.

2)製造施設の微生物汚染状況の把握

 食品・環境衛生検査用フードスタンプ「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を用い,模擬施設の実習終了後の作業台及び飲食店の喫食後の食事用テーブル表面(培地面積10 cm2)の一般細菌数及び真菌数を測定した.

3)スワブATPふき取りによる汚染状況の把握

 ルシパックpen(キッコーマンバイオケミファ株式会社)を用い,模擬施設の実習終了後の作業台及び飲食店の喫食後の食事用テーブル表面(100 cm2)をふき取り,ルミテスター(キッコーマンバイオケミファ株式会社)でATP量を測定した.

 すべてのデータは,Excelの統計関数を用いて解析した.

(結果)

1. 模擬施設

 エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の測定では,好気性微生物数及び真菌数は作業中と比較して作業後に有意に減少した(p<0.05,n=24).フードスタンプを用いた作業台表面の微生物数の測定では,一般生菌数及び真菌数は0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒前と比較して消毒後に有意に減少した.ふき取り検査法を用いて測定したATP量は,消毒の前後で有意差はなかったが,残存率は減少していた(p<0.05,n=24).

2.飲食店

 エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の測定では,模擬施設での実験と同様の結果が得られた.フードスタンプ及びATPふき取り検査による作業台表面の微生物数の測定においても,模擬施設と同様に,0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液による消毒前と比較して消毒後に有意に減少した(p<0.05,n=9).また,消毒用エタノールによる消毒も,0.1% 次亜塩素酸ナトリウムと同様な結果を得た(p<0.05,n=9).

(考察)

 模擬施設の測定結果では作業中と作業後で空中浮遊微生物数が有意に減少しており,エアサンプラーを用いた空中浮遊微生物数の有効性が示された.また,フードスタンプ及びATPふき取り検査も消毒後に微生物数が減少しており,作業台等における環境微生物の測定にはいずれの方法も有効であることが示された.飲食店での測定でも模擬施設と同様の結果が得られたことから,飲食店1施設のみの測定だったが,市井の小規模食品加工所でもこれらの方法は有効であると考えられる.

 これらの簡易的な手法は衛生管理に有用で,小規模食品事業者が容易に導入できる.また,簡易検査の結果は視覚的に捉えられ,各施設従業員の衛生管理教育に,説得力がある資料としても活用できる.

 今後は調査する業種及び施設数を増やし,環境微生物を測定する3つの手法の有効性を実証していきたい.

(利益相反)

 本研究に開示すべき利益相反はない.

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