千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
動物モデルを用いたパーキンソン病の排尿障害発症メカニズムの解明
山本 達也荒木 信之
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_51

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抄録

(緒言)

 パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.

 病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα-シヌクレインであること,α-シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.

 パーキンソン病ではドパミンニューロンを中心としたカテコラミン作動性ニューロンが変性することが知られているが,カテコラミン作動性ニューロンが比較的選択的に障害される理由は明らかでない.

 近年,ドパミンの代謝産物がαシヌクレインの凝集に関与している可能性が指摘されている1).また,我々は電気刺激によりカテコラミン濃度が変動することを報告しており2),αシヌクレインも神経活動依存性に変化することが知られている3).そこで我々はパーキンソン病の病変主座で排尿中枢の一つである黒質を電気刺激することでカテコラミンとαシヌクレインがどのように変化し,互いに相関しているのかを検討した.

(研究方法)

・実験は正常ラット4頭を用いて行った.実験はウレタン麻酔下で黒質に細胞外液採取用透析プローブを刺入して行った.

・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.

・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis法により行い,αシヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法,カテコラミン測定は高速液体クロマトグラフィー法を用いて行った.

 刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.

(結果)

1)カテコラミン・αシヌクレイン濃度

 刺激前の黒質αシヌクレイン濃度・カテコラミン濃度に対する,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激中と刺激後での比較ではカテコラミン・αシヌクレインともに有意な差は認められなかった.

2)カテコラミンとαシヌクレインの関係

 刺激中と刺激後で検討し,刺激中においてはドパミン代謝物のHVA(homovanillic acid)とαシヌクレインの間に正の相関関係の傾向が認められた.(ρ=0.555,p=0.077)

(考察)

 黒質の電気刺激によりドパミン代謝物のHVAとαシヌクレインの間に正の相関関係の傾向がみられたことより,ドパミン代謝の亢進によりαシヌクレイン濃度が上昇する可能性が示唆された.パーキンソン病では残存ニューロンにおいて電気刺激などによりドパミン代謝が亢進するとαシヌクレイン濃度の上昇を介してαシヌクレイン凝集が促進される可能性が示唆された.

(倫理規定)

 本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動4-207).

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