千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
最新号
選択された号の論文の23件中1~23を表示しています
報告
  • ―モデル構築に向けた文献研究
    石井 邦子, 川城 由紀子, 北川 良子, 川村 紀子
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_3-1_12
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     子育て世代包括支援における助産師の活動の現状と課題を明らかにすることを目的に,助産師の活動報告38文献を分析した.助産師の活動に関する記述をコード化し,所属機関別にサブカテゴリー・カテゴリー化し,事業ごとに分類した.

     自治体の助産師の活動は39コードであり,【母子保健事業全般】,【個別相談】,【家庭訪問】等の5カテゴリーに集約された.医療機関の助産師の活動は57コードであり,【産後ケア】,【地域の連携システムへの参画】,【担当保健師との情報共有】等の6カテゴリーに集約された.助産師の活動は,産前・産後サポート事業,産後ケア事業,養育支援訪問事業等に該当した.

     助産師は,保健師や他の専門職と共に自治体が提供する支援活動に加わり,地域の連携システムの一員として医療機関を拠点に助産ケアを提供する機会を拡大していた.しかし,他の専門職との役割分担や多職種連携における助産師固有の支援の実態は解明できなかった.

  • 川村 紀子, 髙橋 眞理
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_13-1_21
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,助産ケアにおける分娩期ヒヤリ・ハット事例の発生要因と防止策の現状をP-mSHELLモデルを用いて明らかにすることである.方法は,著者らの先行研究1)で得られた助産師が最も印象に残る分娩期ヒヤリ・ハット事例『速い分娩経過の判断遅れ』45事例と『抗菌薬点滴の間違い』32事例を対象に,助産師の捉える発生要因と防止策についてP-mSHELLモデルの7つの構成要素別にカテゴリを抽出した.その結果,分娩期ヒヤリ・ハットの主な発生要因は,速い分娩は予測が困難,人員不足,分娩経過の判断不足,マニュアル違反,連携不足等であった.防止策は,速い分娩の理解,人員確保,分娩経過の判断力強化,マニュアル作成,連携の強化等が必要と考えられていた.分娩期の事故及びヒヤリ・ハット防止には助産師個人の能力向上と組織的な取組み,併せてテクニカルとノンテクニカルスキルの両側面からのアプローチの重要性が示された.

  • 佐伯 恭子, 河野 舞, 工藤 美奈子, 佐々木 みづほ, 成田 悠哉, 室井 大佑
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_23-1_31
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究では,千葉県内の高齢者施設(介護老人福祉施設,介護老人保健施設,ケアハウス)の代表者を対象に,新型コロナウイルス感染症が施設職員に与えた影響に関する質問紙調査を実施した.介護量については,介護老人福祉施設と介護老人保健施設において増えたと回答した割合が多く,ケアハウスは変化なしと回答した割合が多かった.増えた介護の内容は感染対策や高齢者への介護に関するもの,減った介護の内容は,レクリエーション活動などであった.新型コロナウイルス感染症による職員の労働環境への影響について,業務量,心理的負担,身体的負担の3項目は,8割を超える施設が増加していると回答した.ポストコロナを見据えては,感染対策を継続しながら,面会やイベントの再開を考えているが,再開の時期や方法の判断の難しさに加え,感染対策に要する経費や人件費など経営面での困難もあり,5類に移行しても公的な支援を求める切実な声があった.

  • ―施設の代表者の視点から―
    河野 舞, 工藤 美奈子, 佐伯 恭子, 佐々木 みづほ, 成田 悠哉, 室井 大佑
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_33-1_40
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究では,千葉県内の高齢者施設(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・ケアハウス)の代表者を対象に,新型コロナウイルス感染症による行動制限が施設高齢者の生活に与えた影響に関する質問紙調査を実施した.その結果,すべての施設で陽性者の出現状況が多く認められ,介護老人福祉施設と介護老人保健施設ではクラスタ―の発生率も高かった.外出の機会,レクリエーション活動,家族等の面会は,すべての施設において制限していた割合が多く,身体活動量,体操リハビリテーション,レクリエーション活動,活動範囲,歩行能力,家族や,入所者などの関わりに低下が認められ,身体的・社会的な衰えがもたらされた可能性が示唆された.また,すべての施設において認知機能や精神状態に影響がみられた.

  • 栗田 和紀, 佐田 直也
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_41-1_44
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     2023年6月に千葉県立保健医療大学の幕張キャンパス(千葉市美浜区)にてアオダイショウが発見された.証拠標本に基づく初めてのこの地域からの記録となる.標本の詳しい特徴を記載し,都市化した埋立地における本種の分布を考察する.

  • 春日 広美
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_45-1_50
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,訪問介護員を理解する一助として,その職業的な成り立ちを黎明期の「派出婦」に遡って確認し,同時期の「派出看護婦」との接点を考察し,訪問介護員,看護師間の関係を展望することである.研究方法は一次二次資料を用いた歴史研究である.

     派出婦は明治大正期の「女中払底」の社会状況下で,家事を細分化して提供し,近代職業化したと考える.派出婦会は,派出看護婦会と類似のシステムを持っていた.両者の接点については,連携関係を示す歴史資料は確認できなかった.患家および病院での「病人付添」では競合関係にあったと考える.両者とも「職業安定法」の施行で解散したのち,共に「有料看護婦家政婦紹介所」に所属する仲間となった.病院では「完全看護」の導入で,病人付添は看護婦に代わって派出婦(付添婦)が行うようになった.お互いの歴史が錯綜したことを確認し,ともに専門性を尊重した良好な連携関係を築いていきたい.

第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
  • 山本 達也, 荒木 信之
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_51
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.

     病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα-シヌクレインであること,α-シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.

     パーキンソン病ではドパミンニューロンを中心としたカテコラミン作動性ニューロンが変性することが知られているが,カテコラミン作動性ニューロンが比較的選択的に障害される理由は明らかでない.

     近年,ドパミンの代謝産物がαシヌクレインの凝集に関与している可能性が指摘されている1).また,我々は電気刺激によりカテコラミン濃度が変動することを報告しており2),αシヌクレインも神経活動依存性に変化することが知られている3).そこで我々はパーキンソン病の病変主座で排尿中枢の一つである黒質を電気刺激することでカテコラミンとαシヌクレインがどのように変化し,互いに相関しているのかを検討した.

    (研究方法)

    ・実験は正常ラット4頭を用いて行った.実験はウレタン麻酔下で黒質に細胞外液採取用透析プローブを刺入して行った.

    ・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.

    ・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis法により行い,αシヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法,カテコラミン測定は高速液体クロマトグラフィー法を用いて行った.

     刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.

    (結果)

    1)カテコラミン・αシヌクレイン濃度

     刺激前の黒質αシヌクレイン濃度・カテコラミン濃度に対する,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激中と刺激後での比較ではカテコラミン・αシヌクレインともに有意な差は認められなかった.

    2)カテコラミンとαシヌクレインの関係

     刺激中と刺激後で検討し,刺激中においてはドパミン代謝物のHVA(homovanillic acid)とαシヌクレインの間に正の相関関係の傾向が認められた.(ρ=0.555,p=0.077)

    (考察)

     黒質の電気刺激によりドパミン代謝物のHVAとαシヌクレインの間に正の相関関係の傾向がみられたことより,ドパミン代謝の亢進によりαシヌクレイン濃度が上昇する可能性が示唆された.パーキンソン病では残存ニューロンにおいて電気刺激などによりドパミン代謝が亢進するとαシヌクレイン濃度の上昇を介してαシヌクレイン凝集が促進される可能性が示唆された.

    (倫理規定)

     本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動4-207).

  • 大谷 拓哉, 三和 真人, 堀本 佳誉
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_52
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     ベッドからの起き上がり動作はベッド上臥位から端座位へと姿勢を変換する動作であり,立ち上がりや歩行へと移行する際に経由する動作である.この動作に関する研究は動作パターンに着目した定性的なものが多く,定量的指標を用いた分析は十分とは言えない状況である.本研究では,ベッドからの起き上がり動作中の関節角度について,3次元動作解析システムとオイラー回転の手法を用いて計測・分析し,動作中の関節運動を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は健常若年男性7名(年齢:20.3±0.5歳,身長:172.4±3.6 cm,体重:61.4±4.5 kg.いずれも平均値±標準偏差)とした.起き上がり動作の開始姿勢はベッド上仰臥位とし,最終姿勢はベッド右側に両下腿をおろした端坐位姿勢とした.起き上がり方法や起き上がり速度は被験者が最も快適に感じるものとした.1回の練習の後,起き上がり動作を3回実施してもらった.

     起き上がり動作開始前に被験者身体の35箇所に赤外線反射マーカを貼付し,3次元動作解析システム(Mac3D)を用いて起き上がり動作中のマーカの空間座標を計測した.各被験者の動作時間を100%に正規化し,動作開始から動作時間5%ごとの関節角度を,マーカ空間座標データより算出した.関節角度算出のためのオイラー回転の回転順はX-Y-Zとした.各被験者の3回の試技の関節角度を平均し,その被験者の代表値とした.起き上がり動作時間(開始姿勢から最終姿勢までの時間)についても,各被験者3回の試技の平均値をその被験者の代表値とした.被験者7名の関節角度ならびに動作時間の平均値と標準偏差を算出した.

    (結果)

     起き上がり動作時間の被験者7名の平均値は2.9±0.4秒(平均値±標準偏差)であった.

     頭頸部関節角度については,屈曲が動作開始30%の時点で最大値32.0°を示し,右回旋が50%の時点で最大値30.2°を示した.側屈については右側屈が0%,5%時点で最大値1.3°,左側屈が75%,80%時点で最大値7.2°を示した.体幹関節角度については,屈曲が動作開始60%の時点で最大値51.2°を示し,右回旋が50%の時点で最大値5.3°を示した.右側屈については,90%の時点で最大値7.5°を示した.左肩関節角度については,屈曲が動作開始45%の時点で最大値17.1°を示し,外転が85%の時点で最大値13.5°を示した.内旋については45%の時点で最大値23.9°を示した.右肩関節の屈伸運動については,動作開始40%の時点で最大伸展角度25.9°を示し,その後は屈曲運動に切り替わり,85%の時点で最大屈曲角度16.5°を示した.右肩関節の外転については,80%の時点で最大値27.0°を示した.右肩関節の内外旋については,40%の時点で最大外旋位19.3°を示したのち内旋運動に切り替わり,85%の時点で最大内旋位27.0°を示した.左肘関節の屈曲については動作開始時より屈曲運動を示し,動作開始30%時点で32.3°,50%時点で40.4°となり,90%時点で最大値52.5°を示した.右肘関節の屈曲については,動作開始40%の時点で最大値68.5°を示した.左股関節の屈曲については,動作開始20%付近から屈曲運動が生じ,40%時点で33.8°,60%時点で55.4°となり,100%時点で最大値62.4°を示した.右股関節の屈曲についても,左股関節とほぼ同様の動きを示した.

    (考察)

     起き上がり動作における頭頸部の運動については,側屈の運動範囲が屈曲や回旋と比較し小さかったことから,屈曲ならびに回旋が主体であることが推察される.回旋については特に起き上がる側(すなわち下肢をベッド端から下ろす側.今回は右側)への回旋が生じることが推察される.体幹については側屈と回旋の運動範囲が小さく,屈曲運動が主体になると推察される.体幹には著明な回旋運動が生じない点が頭頸部の運動と異なる点である.肩関節の屈曲運動については左右で異なり,左肩関節は動作中盤まで屈曲運動を示すのに対し,右肩関節は動作中盤まで伸展運動を示した.左肩関節は重心の移動に寄与するための運動であり,右肩関節は右上肢をベッドについて支持するための運動となっていると考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を受け実施した(申請番号2022-07).

  • 金澤 匠, 細山田 康恵
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_53
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     オートファジーは主要な細胞内タンパク質分解経路であり,タンパク質やオルガネラをオートファゴソームと呼ばれる小胞により取り囲み,分解することで細胞の恒常性維持に寄与している.これまでに卵巣ホルモンの一つであるプロゲステロンを卵巣摘出ラットに投与した時に肝オートファジーが促進されることが明らかになっている1).これは性周期による血中プロゲステロン(P4)濃度の生理的な変動が肝オートファジー活性を調節している可能性を示唆している.そこで本研究では,性周期に伴う血中P4濃度の変動が雌ラットの肝オートファジー活性に及ぼす影響について検討した.

    (研究方法)

     49日齢(7週齢)のF344系雌ラット(12匹)を飼料及び水を自由摂取させて飼育した.ラットの性周期は4~5日間の周期性を示し,血中P4濃度はその性周期に応じて変動する.そこで,性周期が安定する60日齢を経過した後,5日間の尾静脈採血から血中P4濃度の周期性を測定した.5日間の血中P4濃度の推移を測定した結果,1日のみ高くなる日があり,5日周期でピークを示すことが確認された.その周期性に基づき,血中P4濃度の高いラットと低いラットの生体試料が得られるように,ピーク日及びその2日後の2パターン(各6匹)に分けて解剖した.解剖時の日齢は70~73日齢となった.解剖は麻酔下で行い,腹部大動脈血及び肝臓を採取した.採取した血清及び肝臓を用いて血中P4濃度及び肝オートファジー関連タンパク質(LC3,ATG5,p62)の測定を行った.測定結果は,血中P4濃度の中央値を基準に低P4群と高P4群に分けてStudent’s t-testで有意差の検定を行った(有意水準p<0.05).また,オートファジー関連タンパク質と血中P4濃度の相関について,Pearsonの相関係数から検討した(有意水準p<0.05).肝臓切片は抗LC3抗体を用いた蛍光免疫染色を行い,蛍光顕微鏡によりオートファゴソームを観察した.

    (結果)

     解剖した12匹のラットの血中P4濃度は,10~25 ng/mL(最小値:10.54 ng/mL,中央値:19.13 ng/mL,最大値:24.84 ng/mL)の範囲で分布していた.

     肝臓中のオートファジー関連タンパク質を分析した結果,オートファゴソーム形成の指標であるLC3-II/LC3-I比について低P4群と高P4群の間で有意な差は見られなかったが,血中P4濃度との間では正の相関が確認された(r=0.5350,p=0.0731).一方,もう1つのオートファゴソーム形成の指標であるATG5量は低P4群と高P4群の間で有意な差は見られず,血中P4濃度との相関も低かった(r=-0.4603,p=0.1321).オートファジーの分解基質であるp62量については,高P4群で有意に減少し(p<0.05),血中P4濃度との間にも高い負の相関が確認された(r=-0.7817,p=0.0027).

     オートファジー活性を形態学的に評価するため,蛍光免疫染色を用いて肝臓中のオートファゴソームの可視化を行った.その結果,血中P4濃度が中央値付近の19.45 ng/mLであったラットでオートファゴソームが若干観察され,21.76及び24.84 ng/mLであったラットではオートファゴソームの顕著な増加が観察された.

    (考察)

     血中P4濃度はLC3-II/LC3-I比と正の相関を示し,p62量と負の相関を示した.さらにオートファゴソームの顕微鏡観察において,中央値よりも高い血中P4濃度においてオートファゴソームの顕著な増加が見られた.これらの結果から,性周期におけるP4分泌の上昇が肝オートファジーを誘導していると考えられる.

     本研究から,性周期に伴う血中P4濃度の変動が肝オートファジー活性を正に制御していることが明らかとなった.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2022-A005)を得た後,「千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程」に沿って行われた.

  • 堀本 佳誉, 杉本 路斗, 大須田 祐亮, 佐藤 一成
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_54
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     脳性麻痺児に対するリハビリテーションの実践には,子どもの動作を正常にするnormalizeという考え方と,子どもとその家族が重要と考える日常活動に参加できるような動作戦略を考案するoptimizeという考え方がある.

     optimizeという考え方に基づいたリハビリテーションにおいては,理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)は子ども・家族と共同で目標設定を行い,どのような介入すべきかを決定することが重要とされている.

     各国のアンケート調査の結果では,normalizeという考え方が多く用いられていることを報告するものや,2つの考え方が混在して用いられていることを報告しているものなど様々である.

     そこで本研究では,本邦で実施されているリハビリテーションの介入方法の考え方,実際に行われている治療行動を明らかにするためにアンケート調査を行った.

    (研究方法)

     本報告は「本邦におけるCP児に対するリハビリテーションの実践に関するアンケート調査」で得られた結果の一部である.

     研究対象は小児関連施設に所属する,PT,OT,STを対象とした.

     調査内容は,他国の先行研究と同様に,小学生の脳性麻痺児に対して運動発達を促すリハビリテーションを実施するに際に最も重要視している発達理論,介入に対する考え方,代償性運動戦略に対する考え方,介入方法,国際生活機能分類(ICF)の「身体の機能や構造」,「活動」,「参加」の観点から見た,介入方法と期待される結果の関係性であった.アンケートの調査結果は単純集計により分析を行った.

    (結果)

     研究に同意を得られたのは23施設,167名のセラピスト(PT 83名,OT 51名,ST 33名)であり,回答率は49.6%であった.

     重要視している発達理論については「特になし」が67%,介入に対する考え方ではoptimizeが77%と最も多かった.

     代償動作については「典型的運動パターンの代わりとして代償性運動戦略を認める」が52%,「代償性運動戦略の短期間の使用は認めるが,典型的な運動パターンを求める」が47%の順で多かった.

     介入方法については,「身体の機能や構造のトレーニング」が31%,「環境要因に対する介入」21%との順で多く,介入方法と期待される結果の関係性では「身体機能・構造の構成要素に介入し,身体機能・構造の構成要素の改善を図る」,「身体の機能・構造の要素に介入し,活動の構成要素の改善を図る」について60%以上が毎回行う・よく行うと回答されていた.「活動の構成要素への介入し,活動の構成要素の改善を図る.」は34%,「参加の構成要素への介入し,参加の構成要素の改善を図る」は60%以上が,ほとんど行わない・全く行わないと回答されていた.

    (考察)

     GRADEシステムにより,推奨度の高さが報告されているGoal Directed Training(GDT)では,運動発達理論としてダイナミックシステムズ理論を根拠に,代償運動を認め,持っている能力を最大限に発揮するという考え方によるリハビリテーションの実践を重視している.本邦では,GDTと同様に代償運動を認め,持っている能力を最大限に発揮するためのリハビリテーションが実践されているが,その根拠となる運動発達理論を重要視していないこと推測された.

     介入方法と期待される結果の関係性では,身体機能・構造の構成要素に介入が最も多く,身体機能・構造の構成要素の改善や運動学習の転移を期待する傾向が認められ,活動や参加の構成要素への直接的な介入により,活動や参加の構成要素を期待する介入は少ない結果となった.身体機能・構造の構成要素に介入の多さと活動や参加の構成要素への直接的な介入の少なさは他国の報告と同様であった.しかし,GDTでは運動学習の転移は起こりにくいと考えられており,活動や参加への直接的なリハビリテーションの実践を行う必要があると考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を受け実施した(2022-04).

  • 北川 良子, 川城 由紀子, 川村 紀子, 増田 恵美, 石井 邦子
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_55
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     令和2年度の千葉県の助産師就業者数は人口10万人当たりの就業者数は全国ワースト2位という現状がある.また就業場所別は,病院は約50%,診療所は約30%弱となっている一方で,出産数は病院と診療所で半数ずつであり,助産師の就業場所の偏在が問題になっている.本学の母性・助産学実習は産科専門病院,産科診療所においても実習を行っており中小規模の周産期医療機関の責任者より,実習指導を担う助産師のキャリア支援を本学に要望する声が上がっている.本研究ではキャリア支援プログラムを考案するために,中小規模の周産期医療機関に転職した助産師のキャリアニーズの現状をインタビューにより明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象者は中小規模の周産期医療機関に転職し1~2年前後の中堅助産師とした.

     調査はインタビューガイドを用いた半構成化面接を2022年12月から2023年3月に行った.調査内容は基礎的情報(年齢,助産師経験年数,雇用形態),転職前後のキャリアニーズ(現在の施設に転職するまでの経緯,転職を決めた理由,転職した結果希望するキャリアが実現しているか),将来に向けたキャリアニーズ(助産師としてどのようなキャリアを目標としているか,キャリアを発達させるために現在実施していること,キャリアを発達させるために計画している今後の予定),希望するキャリア支援(現在の施設で提供を希望するキャリア支援,外部の機関に希望するキャリア支援)についてである.分析は逐語録から上記に関する語りを抽出し意味内容を損なわずにコード化を行い,類似性や異質性に基づき抽象度を上げカテゴリーを生成した.

    (結果)

     9名の助産師より同意が得られた.助産師経験年数は6~14年,年齢は28~38歳で全員が育児中であり勤務形態は常勤6名,パートが3名であった.

     転職前後のキャリアニーズは47のコードから9のサブカテゴリーが生成された.サブカテゴリーは抽象度を上げずにカテゴリーとした.以下カテゴリーを【 】で示す.対象者は【ライフイベントとの両立】,【希望する助産ケアの実施】,【良好な職場環境】,【目標達成】のために転職し,転職後は【WLBが取れている】,【希望する助産ケアが実施できている】,【勤務条件が良い】と希望するキャリアが実現している一方で【希望する助産ケアが実施できていない】,【正職員になれない】と実現不能なニーズもあった.

     将来に向けたキャリアニーズでは115のコードから28のサブカテゴリー,7のカテゴリーが生成された.【目標とする助産ケアの実施を目指す】,【助産ケア向上のために勤務中に取り組む】,【学修に取り組む】,【就業を継続する】,【目指す目標がある】,【将来の目標を検討する】など自らの助産師の専門性への向上欲求を実現していく内容である一方,【キャリアアップに向けた取り組みが困難である】現状があった.

     希望するキャリア支援は47のコードから16のサブカテゴリー,6のカテゴリーが生成された.【WLBの支援】,【働きやすい人間関係】,【上司のサポート】,【勤務条件の配慮】,【施設内での学修支援】がニーズとして挙げられたが【施設外のキャリア支援へのアクセス困難】な現状があった.

    (考察)

     キャリア支援プログラムには,施設内においては就業継続および助産ケア実践のサポートを背景に応じ講じること,誰もが働きやすい職場環境と人間関係の醸成のために上司だけではなく,働いている助産師を含む施設のスタッフ全員で取り組むことが有益であると考えられる.一方で各種研修会や個人の背景に応じたオーダーメイドの研修などは中小規模の施設では非現実的である.そこで施設外のキャリア支援策へアクセスが容易となるよう,学会や看護協会等の外部組織によるオンデマンド研修の充実,生活の中に取り組めるような学修アプリの開発などが有効であると考えられる.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2021-33).

    (利益相反)

     申告すべきCOI状態はない.

  • 富樫 恵美子, 西村 宣子
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_56
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     医師の働き方改革が2024年4月から開始となる中,医師と共にコロナ禍でその医療に尽力した看護師の働き方にも関心が集まっている.日本看護協会が行った2021年次の調査(病院看護実態調査,2022)において,新卒採用者の離職率は10.3%と,2005年以降初めて10%を超えたことが報告されている.また,職能団体である日本看護協会は「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」(2021年3月)の中で,第1の要因として「夜勤負担」を掲げている.

     これらのことから,基礎教育を修了し臨床現場で働く新人看護師が特に夜勤に適応し,就業継続に繋がる実践的なマネジメントが課題である.

     若年就業者の早期離職問題の原因として上げられるのが,組織参入前に個人が抱く期待と現実のミスマッチによって生じるリアリティ・ショック(尾形,2012)と言われている.その組織参入時に生じる多様な心理に着目し,マネジメントの視点から「組織になじませる力」としてオンボーディングという概念で,「情報を与えるインフォーム行動」「迎え入れるウェルカム行動」「導くガイド行動」の3つの機能があると言われる(尾形,2022).今回,得られた結果をもとにオンボーディング施策を基に「新人看護師の夜勤導入における看護実践マネジメントモデル」を検討したためここに報告する.

    (研究方法)

    1.研究対象者:関東圏内にある300床未満の中小規模病院に勤務する看護師長6名,夜勤指導者(中堅看護師)6名,新人看護師8名

    2.調査期間:2022年2月~3月

    3.データ収集方法:対象者に半構造化インタビューをWeb会議システムにて実施した.

    4.分析方法:インタビュー内容を逐語録にし,看護師長,夜勤指導者(中堅看護師),新人看護師の夜勤導入におけるマネジメントに関する記述を抽出した.

    5.4.を基にオンボーディングのフレームワークに沿って整理し,マネジメントモデルの検討を行った.

    (結果)

     看護師長,夜勤指導者(中堅看護師),新人看護師のマネジメントに関するコード数は326であり,オンボーディングのフレームワークに整理した.

    1)情報を与えるインフォーム行動(コード数74)

    ① コミュニケーション:「夜勤導入前にイメージを持たせる」「定期面談を行い声をかける」

    ② リソースの提供:「病院が作成した夜勤前の技術チェックリストを渡す」「病棟で作成した夜勤時の流れのマニュアルを見せる」「特に基準はなくスタッフの判断に委ねる」

    ③ トレーニング:「病院の集合研修に参加させる」「夜勤を体験させる機会をつくる」

    2)迎え入れるウェルカム行動(コード数36)

     「こまめに声をかける」「臨床心理士へ面談依頼」

    3)導くガイド行動(コード数216)

     「プリセプターやチューターと夜勤を組む」「受け持ち人数を段階的に増やす」「勤務終了時に振り返りを行う」

    (考察)

    1)情報を与えるインフォーム行動は「新入社員が円滑に活動していく方法を学べる経験は,多くのオンボーディング施策がここに含まれる」(尾形,2022)といわているが,施設により異なっており「基準がなくスタッフに委ねられる」というものもあった.このことは,新人看護師にとって何を目標にしたらいいかわからず,そのことから夜勤指導者の目標とずれてしまう危険性を含んでおり検討を要する.

    2)迎え入れるウェルカム行動では今回の研究で,一番コード数が少ない結果から,オンボーディング施策として取り入れられてないと考えられる.新人看護師の「夜勤中に先輩がちょっと世間話をしてくださって,ちょっと緊張がほぐれるようなとても心が落ち着く」という語りがあり,コロナ禍での交流が少ない状況下,意図的にウェルカム行動を取り入れることは,看護職のオンボーディングにとって意義があると考察する.

    3)導くガイド行動については,専門職の育成として,各施設が自部署の特徴を踏まえ,綿密に実施していることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県保健医療大学研究等倫理委員会の承認(承認番号2021-17)を得て実施した.

    (利益相反)

     本研究に関して申告すべきCOI状態はない.

  • 菊池 裕, 池田 有沙, 千葉 友梨香, 緑川 七彩, 工藤 美奈子, 生魚 薫, 一條 知昭
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_57
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     食品衛生法が改正され,2021年6月から全ての食品等事業者に危害要因分析重要管理点(HACCP)に沿った衛生管理が義務化された1).小規模食品事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ,それらの実施状況を確認する上で,施設や調理器具等の衛生状態を視覚的に確認する簡易検査が求められている.本研究は市井の食品事業者がHACCPに対応した衛生管理をすることを目的とし,簡易的な環境微生物の測定方法を検討した.

    (研究方法)

    1.施設

     小規模食品事業者として給食経営管理実習室A107を想定し,給食経営管理実習の実習中と終了後に環境微生物をモニタリングした.

     市井の小規模食品事業者には経営形態の異なる千葉県内の飲食施設1(フランチャイズ)及び2(個人経営)を設定し,環境微生物をモニタリングした.

    2.モニタリング

    1)空中浮遊微生物数の算出

     エアサンプラー(株式会社アイデック空中浮遊菌サンプラーIDC-500B)を用い,作業中の模擬施設及び喫食中の飲食施設で空中浮遊微生物を衝突法で寒天培地に捕集し,吸引空気量1,000 L中の好気性微生物数と真菌(かび,酵母)を測定した.

    2)製造施設の微生物汚染状況の把握

     食品・環境衛生検査用フードスタンプ「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を用い,施設の器具保管庫及び冷蔵庫の取っ手(培地面積10 cm2)の一般細菌,黄色ブドウ球菌及び真菌を測定した.

    3)スワブATPふき取りによる汚染状況の把握

     ルシパックpen(キッコーマンバイオケミファ株式会社)を用い,施設の器具保管庫及び冷蔵庫の取っ手並びに蛇口,包丁及び調理台表面(100 cm2)をスワブでふき取り,ルミテスター(キッコーマンバイオケミファ株式会社)でATP量を測定した.

     すべてのデータは,Excelの統計関数を用いて解析した.

    (結果)

     エアサンプラーを用いて測定した真菌数及び好気性微生物数は,作業中と比較して作業後で有意差は無かったが,残存率は減少していた.

     フードスタンプを用いて測定した真菌数,一般生菌数及び黄色ブドウ球菌数は,有意差は無かったが残存率は減少していた.各施設の比較では,食品施設1及び2よりA107が少なかった.

     ATPふき取り検査法の結果は,食品施設1及び2の器具保管庫,冷蔵庫及び蛇口のATP残存率は減少したが,A107では増加した.調理台のATP残存率は,測定した食品施設1及びA107ともに減少した.包丁のATP残存率は,測定した食品施設2では減少したが,食品施設1では増加した.

    (考察)

     今回行った3種類の検査方法は,食品施設の微生物汚染状況を把握可能で,衛生管理の重要性を視覚的に訴える資料としての運用も可能であることが示唆された.

     フードスタンプ法及びATPふき取り検査法は,簡易的で負担が少なかった.特にATP残存率では,作業終了直後に什器や器具の汚染を簡易に捉えることができ,その有用性が明らかとなった.これらのことから小規模食品事業者が導入しやすく,衛生管理の現状を視覚的に捉えられ,各施設の従業員に衛生管理の重要性を教育する際に説得力がある資料として活用が可能であることが示唆された.

     一方で,エアサンプラーの結果判定は,フードスタンプ法及びATPふき取り検査法に比べて時間を要し,小規模食品事業所での導入に向けては,さらなる症例数を蓄積して評価基準の設定が必要であると考えられた.

     今後は調査する業種及び施設数を増やし,環境微生物を測定する3つの手法の有効性を実証していきたい.

    (利益相反)

     本研究に関連して開示すべき利益相反関係にある企業等はない.

  • 成田 悠哉, 江戸 優裕, 島田 美恵子, 岡村 太郎
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_58
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     高齢者の介護予防の重点分野である閉じこもり予防支援において,外出頻度は閉じこもりのスクリーニング指標として用いられることが多い.高齢者の外出頻度の低下は,寝たきりへの移行や死亡率を高めることが報告されている1).外出の定義が要介護リスクに異なる影響を及ぼすことが報告されているが2),生活における目的別の外出頻度と要支援・要介護リスクの関連を検証した報告はみられない.

     本研究では地域高齢者を対象に目的別の外出頻度と基本チェックリストを活用した要支援・要介護リスク評価尺度の関連を検証することを目的とする.

    (研究方法)

     3市町村の集合住宅に在住する地域高齢者を対象に2022年度に計3回実施した対面調査により,自記式質問紙にて回答が得られた45名を研究対象とした.日常生活に介助や介護が必要な者,65歳未満の者,回答に欠損がある者は解析から除外した.

     調査項目は,基本属性である年齢,性別,教育歴(6年未満,6~9年,10~12年,13年以上),独居(独居,誰かと同居)に加え,目的別の外出頻度,基本チェックリスト(生活機能の評価)とした.

     目的別の外出頻度は食品の買い物,外食,食品以外の買い物,通院,創作活動・習い事,散歩,散歩以外のアウトドア・スポーツ,会合,ボランティアや地域行事,近所での友人との交流,役所での手続き,文化施設(図書館,美術館,映画館),旅行,娯楽施設(カラオケ,スポーツ観戦,パチンコ),仕事(正社員,パート,アルバイト),入浴施設,宗教施設の17項目に対して,過去1年間の外出頻度を尋ね,毎日,週に4~6回,週に2~3回,週に1回,月に1~3回,半年に1~3回,年に1~3回,該当しないの中から回答を求めた.要支援要介護リスクは辻らの報告をもとに3),性・年齢を含む基本チェックリストの12項目で構成される要支援・要介護リスク評価尺度(0~48点)を用いた.

     統計解析はMann-Whitney U検定を用いて,目的別の外出頻度を週に1回以上と1回未満,月に1回以上と1回未満,年に1回以上と1回未満の3パターンに群分けし,それぞれの要支援要介護リスク得点を比較した.有意水準は5%とした.

    (結果)

     解析対象者は31名となり,平均年齢79.1±4.5歳,女性23名(74.1%),教育歴10年目以上29名(93.5%),独居は16名(51.6%)であった.仕事へ週1回以上外出している群は,リスク得点が有意に低かった(平均値±標準偏差,週1回未満:19.6±5.9,週1回以上:13.8±3.8,P=0.036).文化施設に年1回以上外出をしている群は,リスク得点が有意に低かった(年1回未満:24.9±5.7,年1回以上:16.9±4.8,P=0.001).旅行に年1回以上外出をしている群は,リスク得点が有意に低かった(年1回未満:22.4±5.2,年1回以上:17.4±5.8,P=0.026).

    (考察)

     地域高齢者の目的別の外出頻度と要支援要介護リスクの関連性を検証した結果,仕事や文化施設,旅行を目的とした外出頻度と要支援要介護リスクとの関連が示唆された.本研究においては,日常生活が自立している65歳以上の高齢者を対象とした検証ではあるが,横断調査であり因果関係は言及できないこと,交絡因子を十分に考慮できていないことが限界として挙げられる.

    (倫理規定)

     本研究は,本学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2022-13).対象者には書面及び口頭にて説明を行い,同意を得た.

  • 工藤 美奈子, 佐々木 みづほ, 佐伯 恭子, 河野 舞, 室井 大佑, 成田 悠哉, 龍野 一郎
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_59
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や感染症対策に伴う行動制限は,高齢者の地域におけるコミュニケーションと社会活動を制限し,その結果として日常生活動作(ADL),認知機能,うつ病の発症を含めたメンタルヘルスを悪化させていることが危惧されている.千葉県民の健康づくり推進の一助となるべく「COVID-19が及ぼした地域高齢者の健康への影響」についての調査を実施したので結果を報告する.

    (研究方法)

     千葉県内の特別養護老人ホーム・ケアハウス・介護老人保健施設の,全体の責任者であり総括的な役割を担う者(理事長・施設長(管理者・ホーム長)など)を対象に,無記名の自記式質問紙調査(郵送法)を行った.調査期間は2023年2月20日~2023年3月20日まで,対象施設は計456施設とし,アンケート質問用紙への回答と返信をもって同意を得たとした.質問項目は施設の基本データ関連7問,COVID-19が施設に与えた影響関連6問,COVID-19が職員の労働環境に与えた影響が1問,今後の考案等自由記載が1問の合計15問とした.

    (結果)

     アンケート回収率は34%であった(特別養護老人ホーム74,ケアハウス35,介護老人保健施設45).

    ① クラスターの発生:全施設中78%で発生した.

    ② COVID-19の影響で制限した活動:ご家族との面会,外出,レクリエーション活動,施設内の行動範囲の順で制限が多く,自宅復帰,会話,個別の趣味活動での制限は少なかった.

    ③ COVID-19が利用者に与えた影響:全施設中70%以上の施設において,歩行移動能力等の身体活動量が低下した.また,表情笑顔,活気意欲,食堂の集団生活時間等の精神面関連項目においても70%以上の施設で低下が認められた.影響が小さく変化がなかった項目は,栄養状態77%や排泄能力73%であった.上昇した項目は,居室で過ごす時間,臥床時間テレビ鑑賞時間が挙げられた.

    ④ COVID-19による介護介入量と時間:増えたと変化なしがほぼ半数認められた.

    ⑤ COVID-19と利用者の機能:精神状態,認知機能,要介護度においてそれぞれ81%,73%,58%の施設で影響ありと回答した.

    ⑥ COVID-19による施設職員への影響:心理的負担と業務量においてそれぞれ98%,92%の施設で増加していることが認められた.身体的負担は89%,マンパワー不足は75%の施設で影響が認められた.

    ⑦ COVID-19流行前と比較した活動状況の回復度:ボランティア受け入れにおいては68%の施設で全く回復していないと回答し,流行前と同程度に回復したと回答したのは0.6%だった.

    ⑧ 自由記載欄:回答率は50%弱であった.イベントや面会の復活,今後の不安や現状困っていること,政府への要望の記載それぞれ全体の4割を占めた.

    (考察)

     歩行移動能力や身体活動量の低下など身体的機能への悪影響と共に,精神状態・認知機能においても大半の施設で影響が出ていることが分かった.身体的機能低下が作用していることに加え,家族面会の中止や施設内での集団行動の減少などひととのコミュニケーションが激減し,精神面での変化が大きく影響していると考えられる.栄養状態や排泄能力は利用者の状態に変化がない傾向がみられ,基本的日常生活動作のうちの生命維持に必要な動作は影響を受けにくいことが考えられる.今回の調査から,COVID-19が高齢者施設の居住者と職員に大きな影響を与えたこと,また,現在でも影響を与え続けていることがわかった.今後は,施設別や職員の精神面ケアの問題も含め,更なる調査・分析を進める必要があると考える.

    千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会

    承認2022-18

  • 田中 佑季, 佐塚 正樹
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_60
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     千葉県は令和2年度の都道府県別農業産出額が全国4位の農業県であり,中でもカブの収穫量は令和2年においても日本一の収穫量である1)

     カブは春の七草であるスズナとしても知られており,古くから日本に定着している野菜である.調理方法は漬物のような生での利用に加え,煮物や炒め物,おろしなど多彩である.栄養学的にも,カブの根は大根よりg当たりのアスコルビン酸を多く含み,生食が可能なことから,摂取による抗酸化作用が期待できる.

     近年,イタリアの研究チームにより,水溶液に含まれる生物学的抗酸化能(以下抗酸化能)を簡便に測定することができる方法としてBiological Antioxidant Potential Test(以下BAPテスト)が開発された2).しかし,抗酸化能を持つと思われる食品のほとんどはBAPテストによる抗酸化能が測定されていない.

     本研究の目的はBAPテストを用いてカブの抗酸化能を評価するとともに,カブの皮の有無による抗酸化能の違いを検討し,カブの利用に役立てることである.

    (研究方法)

    ⑴ 材料

     カブは千葉市内のスーパーでBAP測定日に購入した新鮮な市販品を用いた.

     また,食品に含まれる代表的な抗酸化物質であるアスコルビン酸を標準物質としてBAP測定を行った.

    ⑵ サンプルの調整

     BAP測定のサンプルはカブの葉・茎部分及び根の先端を完全に除去し,中心から半分に切断して片側を皮つき,もう片側を皮なしのサンプルとして扱った.

     皮つきのサンプルは皮を剝かず,皮なしのサンプルは皮を剥いてそれぞれをDWと一緒にミキサーにかけ,遠心機にかけた.遠心後のサンプルを0.45µmのフィルターでろ過して得られた抽出液を試料とした.

    ⑶ BAP測定

     BAP測定は,フリーラジカル解析装置Free carpe diem(Diacron International社)とBAPの測定キットを用いた.

     アスコルビン酸はBAPの測定範囲に入ると推定される3点の濃度を用意し,BAP測定によって得られた抗酸化能の値(以下BAP値)が正の相関関係を示すのかを確認した.

    (結果)

     カブの抗酸化能をBAP値として初めて示すことができた.カブの皮つきと皮なしのBAP値を比較したところ皮つきが有意に高い結果が得られた.

     今回求めたカブのBAP値は標準物質として測定したアスコルビン酸で換算すると食品成分表に収録されているアスコルビン酸量と比較して高値を示していた.

    (考察)

     アスコルビン酸は水溶性成分であり,今回の検討で得られたBAP値に強く関連する成分であると思われたが,測定結果と日本食品成分表のビタミンCの数値の間に剥離が見られた.カブの根はliquiritinや4,4’-dihydroxy-3’-methoxychalconeなどのフラボノイドを含むため,アスコルビン酸よりフラボノイドをはじめとした非栄養成分の影響をより強く受けている可能性がある3,4)

     今回の測定ではカブのアスコルビン酸の測定はしておらず,品種や収穫された場所も揃っていないため,同一の農場,同一の品種を用いてアスコルビン酸を含めて検討をする必要がある.

     今回試料として利用したカブは日本食品成分表において皮つきと皮なしが別々に収録された,一般に皮を剥かずに食べられることが知られている野菜である.今後カブの皮に含まれる成分の検討により,カブの皮の利用に理解が深まればカブの利用による健康の増進や食品廃棄の減少が期待できると考える.

  • 小林 雅美, 小宮 浩美, 加藤 隆子
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_61
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     精神疾患に罹患した成人の半数は10代半ばまでに発症し,4分の3が20代半ばまでに発症する1)ことから,学校が精神疾患の2次予防を担う役割が大きい.2022年4月の高校の学習指導要綱の改訂では,「精神疾患の予防と回復」が盛り込まれたが,中学校では1980年以降に精神疾患名を挙げての精神保健に関する記載が教科書からなくなったままである.加えて,1995年からスクールカウンセラー制度が開始されているが,2022年の時点で全国の小学校で週4時間以上定期配置されているのは23.7%に過ぎず2),スクールカウンセラーが学校に常駐することは難しい現状にある.これらから,教員が果たす役割が重要と言える.

     これまでの先行研究では,小・中学校の養護教諭が精神疾患をもつ児童・生徒へ関わりを行っていることは報告されていたが,担任を含めた教員がどのように精神疾患をもつ児童・生徒へ関わっているか,またどのように精神疾患について知識提供をしているかについて,教員の認識から明らかにした研究はなかった.そこで,本研究に取り組み,公立小・中学校で働く教員の精神疾患に関する認識を明らかにし,公立小・中学校における児童・生徒の精神的な健康の保持・増進に向けた示唆を得ることを目的とした.

    (研究方法)

     研究対象者は,スノーボールサンプリングにより抽出した.公立小・中学校で働く精神疾患をもつ児童・生徒との関わりの経験あるいは精神疾患について知識提供をした経験を有する教員とした.データ収集期間は,令和4年11月~令和5年1月であった.データ収集方法は,インタビューガイドに基づき半構造化面接を行い,精神疾患をもつ児童・生徒に行った関わりと精神疾患についての知識提供の内容を分析対象とした.KJ法を参考に分析を行った.

    (結果)

     研究対象者は9名で,養護教諭が3名,担任が6名で,男性5名,女性4名だった.教員平均経験年数は養護教諭が平均22年,担任が平均8年だった.

     分析の結果,精神疾患をもつ児童・生徒の生育歴を知り,日々の学校活動を観察することで病状の変化を把握しようとする【学校生活における精神疾患の経過観察】,周囲の児童・生徒が精神疾患を特別視しないように説明することや保健室で休養できるようにする【精神症状ではなく個性の一つとして見守る環境づくり】,突発的な対応で授業の進行が難しいことや,学習上の指導で精神症状の悪化を懸念している【精神症状への個別対応と教育のジレンマ】,家族の精神状態によって精神科医師との話し合いがうまくいかないという【家族状況から精神科の介入が進まない葛藤】,保健室の休養と教室の学習についての【担任と養護教諭の意思疎通の重要性】の5つの認識のカテゴリーが抽出された.

    (考察)

     教員は,児童・生徒の精神症状による行動が精神疾患に基づくものではなく,個性の1つであると周囲の児童や生徒が捉え,見守る環境づくりを意識していた.これは,いじめに繋がらない環境を整えていることにつながっていると考えられた.いじめは,本人を丸ごと受け止める,本人が信頼する大人が現れることが鍵である3)ことから,精神疾患をもつ児童・生徒を教員を含めた周囲が丸ごと受け止めることが必要であることが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究は,本学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(2022-05).なお本研究において,開示すべき利益相反はない.

令和4年度学長裁量研究抄録
  • 大川 由一, 細山田 康恵, 鈴鹿 祐子, 大内 美穂子, 室井 大佑, 松尾 真輔, 佐久間 貴士, 細谷 紀子, 佐伯 恭子, 成 玉恵 ...
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_62
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     高齢化進む千葉県において,「介護予防活動普及展開事業」の取組の推進が重要な課題となっている.本学では多職種連携による地域貢献のための教育研究成果を地域に還元するために「ほい大健康プログラム」を行ってきた.本研究の目的は,介護予防を目指した新たな「ほい大健康プログラム」を地域住民に実践し,介護予防のための生活習慣の獲得に向けた効果を検証することである.

    (研究方法)

     対象は千葉市内UR真砂第一団地において「ほい大健康プログラム」の案内チラシを見て自発的にプログラムへの参加を申し出て,かつ研究協力に同意した者とした. 看護学科,栄養学科,歯科衛生学科,リハビリテーション学科の各プログラムは,2022年10月1日(第1回),10月29日(第2回),11月26日(第3回)に実施した.参加者数は,第1回11名(男性3名,女性8名),第2回10名(男性2名,女性8名),第3回12名(男性2名,女性10名)であった.

     第1回は「いきいきと暮らせるためのからだづくり」に向け,体組成測定やフレイル度のチェックを通じ,自分のからだを知ることを目標とした活動を実施した(看護プログラム).さらに運動器の元気度チェック(ロコモ度チェック)と脳と身体の同時エクササイズ(コグニサイズ)を行った(理学プログラム).

     第2回は「オーラルフレイル」の予防や改善をはかるため,口腔機能の測定とお口の体操を実践した(歯科プログラム).また,「バランスの良い食事」をとるために,食事カードを用いての食事チェックなどを実施した(栄養プログラム).

     第3回は「日々の生活から考える介護予防」を目指し,近隣の地図を用いて散歩コース等の情報共有のためグループワークを実施した(作業プログラム).最後に第1回後から記録している「健康がんばりカレンダー」を基に,参加者の取組によるからだの変化について意見交換を行った(看護プログラム).プログラム終了後に本プロムラムに関して質問紙法によるアンケート調査を実施した.

    (結果)

     アンケート調査結果によると,第1回から第3回までの全プログラムの満足度については,参加者の多数が「満足」と回答し,「やや満足」を加えると満足度100%であった.プログラムの内容については,多くの参加者が「理解できた」と回答した.全プログラム終了後の自身の変化について複数回答で質問したところ,「知識が増えた(67%)」「やる気がでた(50%)」「自信がついた(42%)」「物事に前向きなった(42%)」「体調がよくなった(17%)」,「体の動きがよくなった(17%)」等の結果が得られた.「プログラムの内容を自身の生活のなかで活かせるか」との質問に対しては,「そう思う(83%)」「少しそう思う(14%)」との回答であった.「プログラムで学んだことを,まわりの人たちに広めていきたいと思うか」との質問には,58%が「そう思う」,42%が「少しそう思う」と回答していた.「次も『ほい大プログラム』に参加したいと思うか」との質問については,92%が「そう思う」と回答していた.すべての参加者は,「ほい大プログラム」をまわりの人たちに広めていきたいと回答していた.

    (考察)

     「介護予防」に焦点化した「ほい大健康プログラム」の実施により,地域住民の生活習慣の改善のみならず健康に関する意識の向上,住民同士のネットワーク構築といった効果あることが確認された.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2021-07).

    (利益相反)

     本研究における開示すべきCOI関係にある企業等はない.

  • ―ヨガプログラム教材の評価と改善―
    増田 恵美, 片岡 弥恵子
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_63
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     妊娠中の女性が自覚する腰痛や骨盤痛等の不快症状はマイナートラブルと呼ばれる.腰痛や骨盤痛による苦痛は日常生活に支障をきたし,妊婦のQOLに影響を及ぼすことが報告されており,その対処法として運動プログラムやヨガ等が推奨されている.しかし,COVID-19感染拡大防止により運動の実施は,難しい状況にある.そこで,妊婦が取り入れやすく自宅等にて短時間で行えるヨガに着目した.

     妊婦の腰痛・骨盤痛改善を目的としたオンラインによるヨガプログラムの効果を検討するために,今後,Pilotランダム化比較試験を計画している.そこで,ヨガに関する書籍や既存研究等を基盤に,ヨガプログラムを考案し,マタニティヨガインストラクターからの意見を取り入れ,ヨガプログラムの動画とリーフレットを作成した.オンラインを活用し,考案したヨガプログラム教材を用いて,腰痛や骨盤痛のある妊婦4名を対象に,第1段階としてFeasibility studyを行った1)

     本研究は,第2段階として,考案したヨガプログラム教材について,Feasibility studyで行った質問票の情報や,オンラインセッションでの意見交換から評価を行い,ヨガプログラム教材の改善を図ることを目的とする.

    (研究方法)

     考案したヨガプログラムのFeasibility studyに参加した4名の質問票の結果とオンラインセッションでの意見交換から,先行研究2)を参考に,使用教材についての受容性に関する評価を行った.

    1.Feasibility studyの結果から得られた教材の評価

     質問票から得られた受容性の4項目を,4段階で評価した.また,オンラインセッションでの意見交換から得られた回答について評価を行った.

    2.教材の評価結果からの修正

     ヨガプログラム教材の評価結果をもとに,動画とリーフレットの修正を行った.

    (結果)

    1.Feasibility studyの結果から得られた教材の評価

     「リーフレットの分かりやすさ」は,4名が「大変そう思う」,「そう思う」と回答していた.「動画は分かりやすさ」は,4名中3名が「そう思う」と回答していた.使用教材についての複数の意見が述べられた.リーフレットは「ヨガのポーズごとに色分けや線が引かれている分かりやすい」との意見であった.また,動画は,ヨガのポーズで繰り返し行うポーズが,繰り返した動画ではなかったため「繰り返すポーズで再生されていたら,ヨガがやりやすかった」との意見があった.「動画は役に立ったか」は,1名が「あまりそう思わない」と回答していた.

     考案した動画とリーフレット教材についての評価は概ね高かった.しかし,リーフレットは,線を引きポーズを区分することや,背景の色付けし,見やすくする工夫していく必要がある.また,動画は,各ポーズの方法について説明を加えた動画で,対象者が飽きないように再生時間を短く構成したが,意見交換から,繰り返し行うポーズは動画編集を行い,改善していく必要がある.

    2.教材の評価結果からの修正

     ヨガプログラム教材改訂版の作成にあたって,得られた結果から,映像編集に特化した専門家に依頼して動画編集を行った.リーフレットは,有識者の協力を得て,効果的で実用性の高い教材に仕上げた.

    (考察)

     今後の生活様式において,在宅で自己管理できるヨガプログラム教材を用いてオンラインを活用する新しい方法で,より効果的な教材の存在が必要であると考える.そのため,ヨガプログラム教材の改善を図ったことは,即時に活用が期待できる有用性の高いヨガプログラムとなりうる.今後,教材改訂版を活用してヨガプログラムの効果の検討していきたい.

    (本研究は,倫理審査に該当せず,倫理審査の申請は行っていない)

  • 江戸 優裕, 成田 悠哉, 島田 美恵子, 岡村 太郎
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_64
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     高齢者の健康寿命の延伸には,フレイルやロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の予防や早期対処が重要である.フレイルやロコモの重要な基礎疾患でもあるサルコペニアは,加齢による骨格筋量の減少として表現されてきたが,近年では筋の量だけでなく質の低下も着目されている1).これは筋の量よりも質の方が加齢変化やトレーニング効果を鋭敏に反映するためであり,今後高齢者の筋の質に着目したさらなる研究が望まれる.

     筋の質的評価には様々な手法があるが,複数の筋質指標を同時に用いた研究は少なく,多角的な調査が必要である.また,筋質は高齢者の健康づくり・介護予防に最も重要な因子の一つである身体活動レベルとの関連も報告されている2).そこで本研究は,各筋質指標と身体活動強度および要介護リスクとの関係を明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は2回/月の体操教室に通う地域在住高齢者18名(男性8名・女性10名:年齢79.7±3.9歳・BMI21.6±3.7:Mean±SD)であった.

     筋質は右下肢のPhase angle(生体電気インピーダンス法により計測),右大腿直筋のエコー輝度(大腿中央の短軸画像から計測),右大腿四頭筋のMuscle quality index(MQI:大腿四頭筋厚に対する等尺性膝伸展トルクの比)の3項目を評価した.なお,Phase angleとMQIは高値,エコー輝度は低値であるほど筋質が良いことを示す.各計測にはマルチ周波数体組成計(MC-780AN,タニタ),超音波画像診断装置(SONIMAGE HS2,コニカミノルタ),徒手筋力計(モービィMT-100,酒井医療)を用いた.

     日常生活における活動強度は,身体活動量計(ライフコーダGS,スズケン)を用いて2022年12月に1ヶ月間測定した.

     要介護リスク関連項目は,基本チェックリスト,要支援・要介護リスク評価尺度に加え,フレイル,ロコモ度,サルコペニアの該当状況も調査した.

     各筋質指標と他の項目の関係について相関分析および年齢・性別を制御した偏相関分析を行った.有意水準は5%とした.

    (結果)

     被験者18名の筋質については,Phase angleは3.9±0.7deg,エコー輝度は107.9±17.5a.u.,MQIは285.2±112.8Nm/cmであった.

     日常生活における活動強度については,一日の平均歩数は7,141±3,235歩,中強度(速歩程度)以上の活動時間は24.8±23.1分であった.

     要介護リスク関連項目については,基本チェックリストは3.8±3.3点,要支援・要介護リスク評価尺度は20.6±6.9点であり,プレフレイルは8名,フレイルは1名,ロコモ度Ⅰは8名,Ⅱは7名,Ⅲは2名,サルコペニアは1名,重症サルコペニアは1名が該当した.

     相関分析の結果,各筋質指標は多くの項目と有意な相関を認めた.そして,年齢および性別を制御変数とした偏相関分析の結果,エコー輝度と歩数(r=-0.61)・中強度活動時間(rs=-0.61),Phase angleとフレイル(rs=-0.53)・ロコモ度(rs=-0.72)に有意な相関を認めた.

    (考察)

     年齢と性別の影響を除いても,歩行習慣や中強度の運動習慣があるほど大腿直筋の筋質が高いことと,下肢の筋質低下はフレイルやロコモに関与することが示唆された.このことから,速歩程度の強度での運動指導は下肢の筋質を改善し,フレイルやロコモの進行を抑制する可能性があり,そのような関係を検証するコホートあるいは介入研究が期待される.

    (倫理規定)

     本研究は本学の研究倫理審査委員会の承認(No. 2022-11)を得て実施した.対象者には研究内容を説明し,研究協力に書面で同意を得た.

  • 内海 恵美, 大塚 知子, 大内 美穂子, 坂本 明子, 田口 智恵美, 三枝 香代子, 浅井 美千代
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_65
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,看護師の国家資格を得て,千葉県内の病院に入職した新人看護師が,職場で抱えている困難を明らかにし,本県の臨床現場に則した看護基礎教育の在り方を検討することを目的に実施したものである.

    (研究方法)

    対象:2022年度に県内病院に入職した新人看護師.

    方法:県内病院名簿記載の約290施設のうち,看護管理者の協力同意を得られた52施設の対象者に無記名式Webアンケート調査を実施した.

    期間:2023年1~2月.

    内容:対象者の属性(選択式),看護師として働いて困難を感じた項目(厚生労働省新人看護職員研修ガイドライン改訂版を参考に作成,選択式),印象に残っている困難体験,看護基礎教育課程で教えてほしかった内容,学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力,卒業後にあったらよいと思う支援(以上自由記述).

    分析方法:量的データは単純集計,自由記述は設問ごとに記述内容を抽出しカテゴリー化した.

    (結果)

     844名に配布し,244名から回答を得た(回収率28.9%).

    1.対象者の属性 在籍した学校種は,看護系専門学校が133名(54.5%),4年制大学が99名(40.6%),高等学校専攻科が12名(4.9%)であった.所属施設規模は病床数300床以上が164名(67.2%),200床以上300床未満が32名(15.2%),100床以上200床未満が23名(9.4%),100床未満が20名(8.2%)であった.

    2.看護師として働いて困難を感じた項目 対象者の半数以上が働いていて困難を感じたと回答した項目は20項目にのぼった.なかでも「決められた業務を時間内に実施できるようにする(75.8%)」「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する(71.3%)」「業務上の報告・連絡・相談を適切に行う(56.2%)」と業務遂行に関する項目で多かった.ほか,「人工呼吸器の管理(72.5%)」「体動,移動に注意が必要な患者への援助(65.6%)」「費用対効果を考慮して衛生材料の物品を適切に選択する(59.8%)」などが挙げられた.

    3.印象に残っている困難体験 241コードから65サブカテゴリ,17カテゴリが生成され,【実習では扱わない機器・薬剤の管理】【急変時の対応】【勤務時間の管理】【個別性を踏まえた看護】【臨床応用が必要な看護技術】等として示された.看護基礎教育課程で教えてほしかった内容は,269コードから87のサブカテゴリが生成され,【より臨床に近い実践的な技術】【より実践的な看護記録の書き方】【看護師の業務の実際】等の16のカテゴリとなった.学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力は,331コードが抽出され,【急変時の判断・対応力】【看護技術力】【臨床応用力】ら7つのカテゴリが生成された.また,卒業後に学校からあったらよいと思う支援として97コードから【同級生との情報共有】【疑問や悩みの相談】【知識・技術習得のための学習支援】等の6つのカテゴリが生成された.

    (考察)

     新人看護師は,実習での経験が無い機器や薬剤の管理など,病棟・ユニットでの業務に困難を感じ,また多重業務の中で優先順位を決定すること,個別性のある看護を提供することに苦慮していた.そして看護基礎教育課程において,より臨床に近い看護技術力や臨床応用力を身につける必要性があることを実感していた.加えて,卒業後の支援として情報共有や悩みの相談,知識・技術の習得機会を挙げていた.

     今回の対象者は,新型コロナウイルス感染症が流行・社会問題化した2020年度は在学中(3年課程では2年次生,4年課程では3年次生)であったことから,学修活動に大きな影響を受けたことが想像された.よってこれらの結果は,コロナ禍の影響として実習経験や実践の機会が少なかったことが影響している可能性が考えられる.しかしながら,患者の高齢化・医療の高度化・入院期間の短縮化など臨床現場が複雑化するなかでは,コロナ禍如何にかかわらず,実践的な技術・判断・対応力を養うことができる授業・演習の構築が求められると考える.

    (倫理規定)

     研究者所属施設倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号2022-16)

     なお本研究の一部は,日本看護学教育学会第33回学術集会にて発表した.

  • 酒巻 裕之, 石川 裕子, 鈴鹿 祐子, 山中 紗都, 鈴木 英明
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_66
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2020年の千葉県の高齢化率は27.0%であり,75歳以上の入院患者や要介護高齢者の認定率および認知症高齢者は増加すると推計されている.これらの対象者は,口腔のセルフケアが十分できず,専門的な口腔健康管理が必要となる場合が多い.

     我々は,2019年から地域包括ケアシステムの理解と高齢者介護予防の実践をするリカレント教育を目的とし,歯科衛生士を対象に千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会を開催してきた.2021年度に開催した第3回研修会後の質問紙調査において「今後希望するテーマ」として,口腔粘膜の観察方法,口腔粘膜病変に関するテーマの希望が多く挙げられていた.

     また,担当歯科衛生士によるメンテナンスにおいて口腔内観察の際に口腔粘膜の異常が認められ,歯科医師による検査を実施し早期扁平上皮癌等を含む口腔粘膜病変として診断・治療に至った症例が報告されている.

     そこで第4回研修会では,テーマを「口腔粘膜について」とし,口腔内の観察方法を習得し,口腔粘膜の異常所見について共有することを目標としたリカレント教育プログラムを実施した.

     本報告では,本研修会の概要ならびに,研修会終了後に本研修会参加者自身の振返りからの理解度等を検討する目的で実施した質問調査結果について報告した.

    (研究方法)

     対象は千葉県歯科衛生士会,千葉県立保健医療大学歯科衛生学科同窓会の協力を得て募集し,参加した13名を対象に計3回の研修会を開催した.

     研修会の内容は1回目(2022年11月)「口腔内の観察の目的,口腔内の観察方法について」は,歯科医師(口腔外科)による講義,2回目(2022年12月)「口腔粘膜の代表的な病変の知識」は,歯科医師(口腔病理)による講義,3回目(2023年3月)「口腔内の観察法の演習,擦過細胞診について」は,歯科医師(口腔外科,口腔病理)による講義,実習とした.実習では常に定められた手技での口腔粘膜を含めた口腔内観察と擦過細胞診の細胞採取を体験し,その後,感想や意見交換をした.

     3回目研修会終了後に,Microsoft Formsにて無記名設定の質問調査を実施した.質問項目は,一部自記式多肢選択式とし,質問項目は,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,研修会前後の理解度,今後の研修会のテーマ,研修会に対する要望とした.

    (結果)

     3回の研修会では,それぞれ13名の参加者があった.実習後の感想には,「口腔外科に大変興味がある」,「口腔観察の際,口腔粘膜がすごく気になる」,「細胞診の結果まで知りたい」等が挙がった.

     研修会後の質問調査では,7名から回答を得た.本研修会全体の満足度は「とても満足」「満足」を合わせて100%であった.研修会前後の理解度については,口腔粘膜の正常所見,異常所見,観察方法,主訴の確認方法の理解度が向上していた.また,口腔粘膜病変の診療補助について,研修会前は「十分知っていた」「やや知っていた」を合わせて3名(42.9%),「あまり知らない」2名(28.6%)であったが,研修会後は「十分理解できた」「やや理解できた」の回答が7名(100%)となった.さらに,参加者全員において本研修会内容が今後の口腔粘膜病変に対する診療補助保持に活用できると回答した.

    (考察)

     研修会の講義と実習を通して,対象者は口腔粘膜の正常所見や異常所見,口腔内の観察法,主訴の確認方法,口腔粘膜の診断方法,口腔粘膜病変の診療における診療補助の理解度が向上したと考えられた.したがって,対象者はさらに口腔粘膜病変に対し興味を持ち,診療補助の知識や技術の再確認ができたと思われた.

     歯科衛生士は今後,さまざまな環境において口腔観察を行う機会を持ち,口腔粘膜病変を発見する機会の増加が予想されることからも,今回の研修会は,歯科衛生士にとって有意義であったと考えられた.

     参加者の意見をふまえて,今後の歯科衛生士研修会について,開催内容と開催方法から,多くの参加者を得て継続開催を企画していく所存である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2022-17)を得て実施した.

健康福祉部との意見交換会報告
  • ―保健・医療・福祉の連携拠点として―
    河部 房子, 大川 由一, 平岡 真実, 室井 大佑, 酒巻 裕之, 有川 真弓, 岡村 太郎, 佐藤 紀子, 龍野 一郎
    2024 年 15 巻 1 号 p. 1_67
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/19
    研究報告書・技術報告書 フリー

    はじめに

     毎年開催している取組報告会は,今年で第4回目となる.保健・医療・福祉の連携拠点として位置づけられている本学の機能のさらなる発揮に向け,本学の取組を報告し,県の健康政策担当者との意見交換を行った.以下に概要を報告する.

    報告会の概要

    日時:2023年11月2日(木)11:00~12:00

    会場:県庁本庁舎1階 多目的ホール

    出席者:健康福祉部14名(高梨健康福祉部長,鈴木保健医療担当部長,野澤次長,舘岡次長,健康福祉政策課2名,疾病対策課1名,高齢者福祉課2名,障害福祉事業課1名,医療整備課3名)保健医療大学14名(龍野学長,大川副学長,佐藤学部長他11名)

    報告内容

    1.大学の概要およびこれまでの取組と成果

     将来構想検討委員長 河部房子

     自己点検評価委員長 平岡真実

     今年度の本学の取組について,「人材育成」「シンクタンク機能」「地域貢献」の観点から,令和4年度の実績および5年度の取組状況を報告した.また,教育活動の成果として,開学後初めて実施した卒業生調査の結果について中間報告を行った.

    2.主な取組の紹介

    ⑴ 研究的取組

     リハビリテーション学科理学療法学専攻 室井大佑

     昨年度から継続して行っている「新型コロナウィルスが千葉県の高齢者に与えた影響」について,新たな調査結果について報告した.

    ⑵ 専門職の質向上をはかる取組

     看護学科 河部房子,歯科衛生学科 酒巻裕之,

     リハビリテーション学科作業療法学専攻 有川真弓

     様々な保健医療専門職の実践の質向上につながる取組として,大学独自で取り組んでいる研修,県の関係機関との協働で取り組んでいる研修,職能団体との協働で取り組んでいる研修,それぞれについてその概要と成果を報告した.

    今後に向けた意見交換(抜粋)

    1.卒業生調査について

    ・調査の周知や説明をどのように行ったのか.

    ⇒本学の倫理委員会で調査の目的や方法など審議したうえで,卒業生に依頼した.卒業生への依頼については,本学の同窓会組織を通じて連絡した.

    2.「新型コロナウィルスが千葉県の高齢者に与えた影響」調査について

    ・5類移行後の行政への要望について,具体的に聞いていたら教えていただきたい.

    ⇒高齢者施設では5類に移行しても感染対策は変更できないため,費用は同じようにかかる.5類移行後は補助金が削減されたが,施設としては出費が変わらないという切実な意見があった.

    ・いすみ市と連携して特定健診・後期健診の結果についてのデータ収集を行っているが,何年分の結果になるのか.また,今後の検証の方向性について教えていただきたい.

    ⇒いすみ市のデータは5年分であり,コロナ前後で比較ができると考えている.介護保険データに関しては共有が難しいということであった.今後は,健康・健診データを解析し,レセプトデータなどとの関連について分析できればと考えている.

    ・施設別コロナによる施設職員への影響に関して,離職率の抑制と補助金との関連について教えていただきたい.施設職員の専門技術のレベルについて,結果の背景要因について教えていただきたい.

    ⇒施設ごとに差があったのが心理的負担と離職率だった.クラスターが発生した施設とそうでない施設を比較したところ,離職率に差が見られた.

    ⇒専門技術レベルに関してはコロナの影響で,ほとんど研修会が中止となり,またオンライン研修での実技研修は難しく,多くの施設が影響を受けた.

    3.作業療法士の連携取組について

    ・千葉リハビリセンターとの連携もあるのか.また,地域リハの展開について,現在の状況はどうか.

    ⇒職能団体に本学作業療法学専攻教員と県リハ職員が所属しているため,協働して県内専門職へのリカレント教育を検討している.地域リハの展開という点では,職能団体の中に地域連携部があり,情報共有を行っている段階である.

feedback
Top