千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
ラットの性周期による卵巣ホルモンの変動が肝オートファジーに及ぼす影響
金澤 匠細山田 康恵
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_53

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抄録

(緒言)

 オートファジーは主要な細胞内タンパク質分解経路であり,タンパク質やオルガネラをオートファゴソームと呼ばれる小胞により取り囲み,分解することで細胞の恒常性維持に寄与している.これまでに卵巣ホルモンの一つであるプロゲステロンを卵巣摘出ラットに投与した時に肝オートファジーが促進されることが明らかになっている1).これは性周期による血中プロゲステロン(P4)濃度の生理的な変動が肝オートファジー活性を調節している可能性を示唆している.そこで本研究では,性周期に伴う血中P4濃度の変動が雌ラットの肝オートファジー活性に及ぼす影響について検討した.

(研究方法)

 49日齢(7週齢)のF344系雌ラット(12匹)を飼料及び水を自由摂取させて飼育した.ラットの性周期は4~5日間の周期性を示し,血中P4濃度はその性周期に応じて変動する.そこで,性周期が安定する60日齢を経過した後,5日間の尾静脈採血から血中P4濃度の周期性を測定した.5日間の血中P4濃度の推移を測定した結果,1日のみ高くなる日があり,5日周期でピークを示すことが確認された.その周期性に基づき,血中P4濃度の高いラットと低いラットの生体試料が得られるように,ピーク日及びその2日後の2パターン(各6匹)に分けて解剖した.解剖時の日齢は70~73日齢となった.解剖は麻酔下で行い,腹部大動脈血及び肝臓を採取した.採取した血清及び肝臓を用いて血中P4濃度及び肝オートファジー関連タンパク質(LC3,ATG5,p62)の測定を行った.測定結果は,血中P4濃度の中央値を基準に低P4群と高P4群に分けてStudent’s t-testで有意差の検定を行った(有意水準p<0.05).また,オートファジー関連タンパク質と血中P4濃度の相関について,Pearsonの相関係数から検討した(有意水準p<0.05).肝臓切片は抗LC3抗体を用いた蛍光免疫染色を行い,蛍光顕微鏡によりオートファゴソームを観察した.

(結果)

 解剖した12匹のラットの血中P4濃度は,10~25 ng/mL(最小値:10.54 ng/mL,中央値:19.13 ng/mL,最大値:24.84 ng/mL)の範囲で分布していた.

 肝臓中のオートファジー関連タンパク質を分析した結果,オートファゴソーム形成の指標であるLC3-II/LC3-I比について低P4群と高P4群の間で有意な差は見られなかったが,血中P4濃度との間では正の相関が確認された(r=0.5350,p=0.0731).一方,もう1つのオートファゴソーム形成の指標であるATG5量は低P4群と高P4群の間で有意な差は見られず,血中P4濃度との相関も低かった(r=-0.4603,p=0.1321).オートファジーの分解基質であるp62量については,高P4群で有意に減少し(p<0.05),血中P4濃度との間にも高い負の相関が確認された(r=-0.7817,p=0.0027).

 オートファジー活性を形態学的に評価するため,蛍光免疫染色を用いて肝臓中のオートファゴソームの可視化を行った.その結果,血中P4濃度が中央値付近の19.45 ng/mLであったラットでオートファゴソームが若干観察され,21.76及び24.84 ng/mLであったラットではオートファゴソームの顕著な増加が観察された.

(考察)

 血中P4濃度はLC3-II/LC3-I比と正の相関を示し,p62量と負の相関を示した.さらにオートファゴソームの顕微鏡観察において,中央値よりも高い血中P4濃度においてオートファゴソームの顕著な増加が見られた.これらの結果から,性周期におけるP4分泌の上昇が肝オートファジーを誘導していると考えられる.

 本研究から,性周期に伴う血中P4濃度の変動が肝オートファジー活性を正に制御していることが明らかとなった.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学動物実験研究倫理審査部会の承認(2022-A005)を得た後,「千葉県立保健医療大学動物実験等に関する管理規程」に沿って行われた.

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