千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
本邦における脳性麻痺児に対するリハビリテーションの実践に関するアンケート調査
堀本 佳誉杉本 路斗大須田 祐亮佐藤 一成
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_54

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抄録

(緒言)

 脳性麻痺児に対するリハビリテーションの実践には,子どもの動作を正常にするnormalizeという考え方と,子どもとその家族が重要と考える日常活動に参加できるような動作戦略を考案するoptimizeという考え方がある.

 optimizeという考え方に基づいたリハビリテーションにおいては,理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)は子ども・家族と共同で目標設定を行い,どのような介入すべきかを決定することが重要とされている.

 各国のアンケート調査の結果では,normalizeという考え方が多く用いられていることを報告するものや,2つの考え方が混在して用いられていることを報告しているものなど様々である.

 そこで本研究では,本邦で実施されているリハビリテーションの介入方法の考え方,実際に行われている治療行動を明らかにするためにアンケート調査を行った.

(研究方法)

 本報告は「本邦におけるCP児に対するリハビリテーションの実践に関するアンケート調査」で得られた結果の一部である.

 研究対象は小児関連施設に所属する,PT,OT,STを対象とした.

 調査内容は,他国の先行研究と同様に,小学生の脳性麻痺児に対して運動発達を促すリハビリテーションを実施するに際に最も重要視している発達理論,介入に対する考え方,代償性運動戦略に対する考え方,介入方法,国際生活機能分類(ICF)の「身体の機能や構造」,「活動」,「参加」の観点から見た,介入方法と期待される結果の関係性であった.アンケートの調査結果は単純集計により分析を行った.

(結果)

 研究に同意を得られたのは23施設,167名のセラピスト(PT 83名,OT 51名,ST 33名)であり,回答率は49.6%であった.

 重要視している発達理論については「特になし」が67%,介入に対する考え方ではoptimizeが77%と最も多かった.

 代償動作については「典型的運動パターンの代わりとして代償性運動戦略を認める」が52%,「代償性運動戦略の短期間の使用は認めるが,典型的な運動パターンを求める」が47%の順で多かった.

 介入方法については,「身体の機能や構造のトレーニング」が31%,「環境要因に対する介入」21%との順で多く,介入方法と期待される結果の関係性では「身体機能・構造の構成要素に介入し,身体機能・構造の構成要素の改善を図る」,「身体の機能・構造の要素に介入し,活動の構成要素の改善を図る」について60%以上が毎回行う・よく行うと回答されていた.「活動の構成要素への介入し,活動の構成要素の改善を図る.」は34%,「参加の構成要素への介入し,参加の構成要素の改善を図る」は60%以上が,ほとんど行わない・全く行わないと回答されていた.

(考察)

 GRADEシステムにより,推奨度の高さが報告されているGoal Directed Training(GDT)では,運動発達理論としてダイナミックシステムズ理論を根拠に,代償運動を認め,持っている能力を最大限に発揮するという考え方によるリハビリテーションの実践を重視している.本邦では,GDTと同様に代償運動を認め,持っている能力を最大限に発揮するためのリハビリテーションが実践されているが,その根拠となる運動発達理論を重要視していないこと推測された.

 介入方法と期待される結果の関係性では,身体機能・構造の構成要素に介入が最も多く,身体機能・構造の構成要素の改善や運動学習の転移を期待する傾向が認められ,活動や参加の構成要素への直接的な介入により,活動や参加の構成要素を期待する介入は少ない結果となった.身体機能・構造の構成要素に介入の多さと活動や参加の構成要素への直接的な介入の少なさは他国の報告と同様であった.しかし,GDTでは運動学習の転移は起こりにくいと考えられており,活動や参加への直接的なリハビリテーションの実践を行う必要があると考えられた.

(倫理規定)

 本研究は,千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を受け実施した(2022-04).

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