千葉県立保健医療大学紀要
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第14回共同研究発表会(2023.9.12~9.16)
HACCPシステムに用いる微生物管理手法の実証実験に関する研究
菊池 裕池田 有沙千葉 友梨香緑川 七彩工藤 美奈子生魚 薫一條 知昭
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2024 年 15 巻 1 号 p. 1_57

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抄録

(緒言)

 食品衛生法が改正され,2021年6月から全ての食品等事業者に危害要因分析重要管理点(HACCP)に沿った衛生管理が義務化された1).小規模食品事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ,それらの実施状況を確認する上で,施設や調理器具等の衛生状態を視覚的に確認する簡易検査が求められている.本研究は市井の食品事業者がHACCPに対応した衛生管理をすることを目的とし,簡易的な環境微生物の測定方法を検討した.

(研究方法)

1.施設

 小規模食品事業者として給食経営管理実習室A107を想定し,給食経営管理実習の実習中と終了後に環境微生物をモニタリングした.

 市井の小規模食品事業者には経営形態の異なる千葉県内の飲食施設1(フランチャイズ)及び2(個人経営)を設定し,環境微生物をモニタリングした.

2.モニタリング

1)空中浮遊微生物数の算出

 エアサンプラー(株式会社アイデック空中浮遊菌サンプラーIDC-500B)を用い,作業中の模擬施設及び喫食中の飲食施設で空中浮遊微生物を衝突法で寒天培地に捕集し,吸引空気量1,000 L中の好気性微生物数と真菌(かび,酵母)を測定した.

2)製造施設の微生物汚染状況の把握

 食品・環境衛生検査用フードスタンプ「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を用い,施設の器具保管庫及び冷蔵庫の取っ手(培地面積10 cm2)の一般細菌,黄色ブドウ球菌及び真菌を測定した.

3)スワブATPふき取りによる汚染状況の把握

 ルシパックpen(キッコーマンバイオケミファ株式会社)を用い,施設の器具保管庫及び冷蔵庫の取っ手並びに蛇口,包丁及び調理台表面(100 cm2)をスワブでふき取り,ルミテスター(キッコーマンバイオケミファ株式会社)でATP量を測定した.

 すべてのデータは,Excelの統計関数を用いて解析した.

(結果)

 エアサンプラーを用いて測定した真菌数及び好気性微生物数は,作業中と比較して作業後で有意差は無かったが,残存率は減少していた.

 フードスタンプを用いて測定した真菌数,一般生菌数及び黄色ブドウ球菌数は,有意差は無かったが残存率は減少していた.各施設の比較では,食品施設1及び2よりA107が少なかった.

 ATPふき取り検査法の結果は,食品施設1及び2の器具保管庫,冷蔵庫及び蛇口のATP残存率は減少したが,A107では増加した.調理台のATP残存率は,測定した食品施設1及びA107ともに減少した.包丁のATP残存率は,測定した食品施設2では減少したが,食品施設1では増加した.

(考察)

 今回行った3種類の検査方法は,食品施設の微生物汚染状況を把握可能で,衛生管理の重要性を視覚的に訴える資料としての運用も可能であることが示唆された.

 フードスタンプ法及びATPふき取り検査法は,簡易的で負担が少なかった.特にATP残存率では,作業終了直後に什器や器具の汚染を簡易に捉えることができ,その有用性が明らかとなった.これらのことから小規模食品事業者が導入しやすく,衛生管理の現状を視覚的に捉えられ,各施設の従業員に衛生管理の重要性を教育する際に説得力がある資料として活用が可能であることが示唆された.

 一方で,エアサンプラーの結果判定は,フードスタンプ法及びATPふき取り検査法に比べて時間を要し,小規模食品事業所での導入に向けては,さらなる症例数を蓄積して評価基準の設定が必要であると考えられた.

 今後は調査する業種及び施設数を増やし,環境微生物を測定する3つの手法の有効性を実証していきたい.

(利益相反)

 本研究に関連して開示すべき利益相反関係にある企業等はない.

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