2025 年 16 巻 1 号 p. 1_147
(緒言)
歯科衛生士が担当する周術期口腔健康管理や集中治療室(ICU)では,経口気管挿管により気道確保されている患者がいる.経口気管挿管患者の口腔健康管理は,気管挿管関連肺炎(VAP)予防のために重要である.しかし口腔内に気管チューブが存在することから,口腔内の観察や口腔衛生管理は困難である.
われわれは,経口気管挿管患者の口腔健康管理ができることを目標に,経口挿管状態を模したシミュレーターを用いて,挿管された気管チューブの状態や口腔内観察の方法,口腔清掃方法について指導している.
これまで歯科衛生学科学生にマッキントッシュ型喉頭鏡を用いた経口気管挿管のデモンストレーションを行ったが,学生が確実に見学できたかが不確実な状況であった.
そこで本研究ではビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技のデモンストレーションの有用性について検討することを目的として質問調査を行い検討した.
(研究方法)
歯科衛生学科3年生24名のうち,研究協力の同意を得た者からの質問調査回答を対象とした.
歯科診療室総合実習における「救急救命処置」の課題学習の中で,DAMシミュレータ トレーニングモデル(京都科学,京都)にビデオ喉頭鏡(エアウェイスコープ,日本光電工業株式会社,東京)とマッキントッシュ型喉頭鏡それぞれを用いて,経口気管挿管手技のデモンストレーションを行った.
課題学習後に,Microsoft Formsを用いて無記名式,一部自記式多肢選択式質問調査を行った.質問内容は,①経口気管挿管手技のデモンストレーションは有効か,②ビデオ喉頭鏡とマッキントッシュ喉頭鏡を用いた気管挿管の理解のしやすさの違い,③どちらのデモンストレーションがよいかとした.質問調査結果を単純集計し,検討した.
(結果)
7名から回答(回答率29.2%)を得た.回答した全員がビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技について理解でき,マッキントッシュ型喉頭鏡を用いた方法より理解しやすいと回答した.経口気管挿管手技のデモンストレーションについて,今後の歯科衛生士として行う口腔健康管理に5名が「非常に役立つと思う」,1名が「やや役立つと思う」(計6名,85.7%)と回答した.また,経口気管挿管手技のデモンストレーションを見学することで,「経口気管挿管患者の口腔内のイメージができるようになった」の自由記述があった.
(考察)
歯科衛生士は,癌治療のための手術,薬物療法,放射線治療,心臓手術,人工関節置換術等,緩和ケア等において,周術期口腔健康管理のうち,口腔衛生管理を担当する.周術期口腔健康管理や集中治療室(ICU)では,経口気管挿管により気道確保されている患者がいる.経口気管挿管中の口腔健康管理は,VAP予防に重要である.しかし口腔内に気管チューブが存在することから,口腔内の観察や口腔衛生管理は困難で,歯科衛生士はそれに対応できるスキルを習得する必要がある.また,気管挿管による気道確保が行われる臨床の場には歯科衛生士の業務がないことから,歯科衛生士は経口気管挿管の手技に接する機会がないといえる.
そこで学生にとって,経口気管挿管中の口腔内の状態を把握したり,気管チューブの挿入や声門を越えた気管内にチューブのカフが入るイメージができると,特に汚染物の咽頭部への流入しないようにすることを理解し,VAPを予防する口腔健康管理を行うことにつながると考え,経口気管挿管のデモンストレーションを行っている.しかし,マッキントッシュ型喉頭鏡による手技の見学では,演習に参加している学生が口腔内等の同じ場面を同時に確認できない,という課題があった.本研究の質問調査結果から,学生はビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技について理解できたことが確認され,課題が改善されたと考えられた.
以上のことから,ビデオ喉頭鏡を用いた方法に変更することにより,学生は経口気管挿管手技中の口腔内や気管チューブの状態を把握でき,経口気管挿管患者の口腔内の状態を理解するのに有用であると考えられた.
(倫理規定)
本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理委員会の承認(2023-22)を得て実施された.
(研究成果の公表)
本研究の成果の概要を,第43回日本歯科医学教育学会(令和6年9月,名古屋)にて報告した.